子規の旅その後(2)子規の庭 うちの庭

前回の続き。

 

隣りに陸羯南が住まっていたはず。

どこだったんでしょう、とスタッフに尋ねると、
西隣というからこちらでしょうか、わからなくなっていることも多くて、
という答えだった。

そりゃそうだ。

子規は1902年に亡くなり、陸羯南は1907年に亡くなる、
その後も家族が1941年まで住み続け、空襲で1945年に焼失した家である。
1950年に寒川鼠骨らの尽力で再建された。

妹律が住んでいたのは子規死去の後40年余り、その間改築もされ、いろいろ変わったろう。

当時の庭木の図も展示されている。

客間から直接庭に出られるようになっていて、
このように、隣家の羯南は、庭から直接、縁側から子規を見舞ったこともあったかもなあなどと思いながら庭を歩いた。


子規の亡くなった日9月19日を糸瓜忌という。

子規の部屋の目の前に糸瓜棚がある。

先のスタッフによると、
ここ2年ほど、猛暑でその9月にはヘチマの雌花がうまく咲かなくて、
実がならなくなっているとのことだった。

その棚の足元にツワブキが植わっている。

ところで、松山市立子規記念博物館には、
子規と漱石が松山で2か月ともに住んだ「愚陀仏庵」の原寸大で再現した模型があり、
その庭先に、ツワブキが植わっているのが目に留まった。

うちのアトリエでも、ちょうどツワブキを植えたところだったので、
何かうれしい気持ちがした。

★こちらがうちのツワブキ

ツワブキは手がかからず、耐陰性があって日陰でも育ち、
つねに緑の葉を茂らせ、茎は煮物にして、黄色い花も咲く。

これまで和風すぎる気がして、植えようと考えたことがなかったが、
子規と漱石と同じと思うと、特別な気もする。(いや、そこらじゅうに植わってるけどね)
低い位置で葉っぱを大きく広げて、庭を立体的にしてくれそうだ。

それでこの子規庵にもツワブキが植わっている。おお、と思う。

子規記念博物館のことはこちら。

子規と漱石 愚陀仏庵のふたりー新春道後温泉旅行(9)


ついでにツワブキの隣にも、私には親しみのある草が。

ミズヒキである。しかも、うちのと同じ、八の字の斑入りだ。

ミズヒキには斑のないものもあるが、八の字が縁起が良さそうで、気に入って生やさせておいている。

こぼれ種で勝手に生えて、夏ごろからわりと長く赤い花を咲かせる。

うちのように日陰の庭でもよく育つ。

★アトリエの庭のツワブキとミズヒキ

 

子規庵は、戦中に焼失したものを弟子たちの尽力で元のように建て直されたもので、
庭もまったく元通りでもない、
だが、鳥が運んできた種から芽ぶいた草木が生えてきていて、
子規存命中の根岸の雰囲気を楽しんでいただければ、というようなお話を聞いた。

こういう庭が好きだなあと思う。

庭の立札

「ごてごてと草木植ゑし 小庭かな」
今小園は余が天地にして草花は余が唯一の詩料となりぬ。(子規)

★立札

病気の子規は、毎日の変化が食事と庭の草木だったのだろうと思う。

私もコチャコチャと草を植え、いつの間にか生えてきた草をそのままにして、
緑に慰められている。


子規庵は、玄関から入り、帰るときは庭を通って、細い裏口が出口になっていた。

そもそも、こういう庭の作りはいいなと思う。

門から玄関までたどり着くまでの庭じゃなくて、
室内の奥にある、家族だけのための庭、という作りだ。

庭でお茶を飲んでたら、近所の人が通りがかってこんにちは、なんて絶対にいや。

家族でくつろぐプライベートな時間は、人目を気にせずゆっくり過ごしたい、
というのが
私の理想の庭である。

表参道にある「山田守の自邸」(数年前まで喫茶店として公開されていた)も、
こんな作りだった。

外からは庭の様子が見えないようになっていて、
室内に入ると、大きな窓から庭が眺められた。

英国の裏庭もこういう作りになっていて、『秘密の花園』の舞台になった。

そうそう、こないだ行った吉屋信子邸もそのように作られていた。
その話はいずれまた。

明月院ブルーをうちでも ー 鎌倉の旅

去年の6月、鎌倉の明月院にアジサイを観にいった。

境内はアジサイがいっせいに咲いて、壮観である。

一つ一つの花は小ぶりで、青い色がうつくしい。

複数の品種のアジサイを植えている庭が多いが、
ここでは珍しくほとんど1種類のアジサイだけを植えていて、
この色は明月院ブルーと呼ばれている。

特別公開されている本堂後庭園の奥のほうに、
まだ小さい
アジサイを育てている畑のような場所があった。

立札に園芸部とある。

お寺にアジサイを栽培管理する専門部署があるのか! さすがである。

挿し木で増やしているという。

うちもほしいなあ。

なんていう品種なのかしら。

牧野富太郎によって名付けらた、
「安行四季咲き ヒメアジサイ」ということだった。

帰りにいくつかのお花屋さんに寄ったが、
シーズンゆえにアジサイの鉢はたくさん売っているのに、同じものはなかった。

ならば、と園芸サイトで探すと、すでに品切れになっていた。

植物は旬があるので、販売時期が限られている。

しかたがない、来年を待つことになった。


さて、1年経った。

植え付け適期の冬ごろから、気もそぞろになっていたが、まだ出ない。

5月、そろそろアジサイの鉢が出てくる時期である。

いよいよかと勇んで園芸店に行く。

しかし、店内をぐるぐる回っても、目当ての品種はなさそうだ。

お店の人に聞いても、ないという。

ぼやぼやしていると、今年も逃すことになる。

焦って、2つか3つぐらい店を回るも、やはりない。

1つのお店の人がぽろっと「そういう地名のついた品種は扱ってないですねえ」と言ったのが気になった。

地名。そうなのか。

それなら、地名そのものの「安行」にならあるかと、
埼玉県川口市の安行の園芸センターに電話することにした。

果たせるかな、と言いたいところだが、なんと、そちらでも扱ってないとの答えだった。

ええええ、ここでも扱ってないのか!

もうネットで買うしかないな。

ネットは送料がかかるから、なるべく実店舗で買おうと思っていたが、

そういうことなら、覚悟を決めた。


サイトを見ると、すでに品切れになっている店もある。

ぼやぼやしてられん。よし、購入。

雨が降った翌日、植え付けた。

小さなつぼみが2つついている。

うまくいけば、来月には、うちでも「明月院ブルー」だ。


明月院 (鎌倉観光公式ガイド)
https://www.trip-kamakura.com/place/japanheritage/230.html

赤ずきんちゃんはプーナヒルッカ - 赤ずきんちゃんの旅

フィンランドセンターの編み物クラブに参加するようになったのは2020年5月。

コロナ禍でオンラインで開催されるのを知ってから。

展覧会が2つとも休止したり休館になって落ち込んでいた時だったから、
編み物に夢中になった。

昨冬、クラブ内のコンペにエントリーしたのが「ハート模様のバラクラバ」。

コンペのテーマはクリスマス、指定色はクリスマスカラー、ということだったので、
色は赤と白の毛糸を引きそろえてハートを編み込むことにした。


バラクラバは、ネックウォーマーがそのまま頭のフードにつながっていて、
帽子とマフラーが一体になったもの。

首と頭にすきまがなくて風が入らず、耳も覆えるので、本当にあたたかい。

今年の冬は寒かったし、とくに初詣の時には大活躍だった。

寒い中かぶってでかけても、参拝の時にはパッと後ろに外せばよくて、
首にひっかかってるから、混雑した行列の中でも、

帽子みたいにどこかで落とすってこともない。

で、また寒くなったらひょいっとかぶり直す。

ただ、これをかぶっている人をあまり外では見ないので
(編み物界でもハイブランドでも数年前に大流行したというのに!)、
ヘンテコに見えないか不安になった。

黒いダウン、それもバイクのライダーか?ってぐらい
ガッチリしたデザインのものを
着こんでいるせいもあって、

マスクマンのプロレスラーのように強そうに見える。

目出し帽に見えないように、防災頭巾に見えないように、
慎重にバランスを見て、デザインを考えたつもりなのに、
やはりそう見えたらがっかりする。

外からはどう見えるんだろう。


それを先日、クラブに持って行き、
「あかずきんちゃんみたいでしょ、like Little Red Riding Hood」と発表したところ、

赤ずきんちゃんはフィンランド語で「punahilkka」と教えてもらった。
プーナヒルッカ。フィンランド語は響きがかわいい。

クラブのメンバーからも口々にかわいい、似合うといわれ、
話したことがない人からも声をかけられた。

赤ずきんちゃんみたいね、マッチ売りの少女みたいね。

気をよくして、別の会合にも着て行ったところ、
かわいいけど、もしかして手編みなのか、どうやって編んだんだ、難しそうだが、
ずいぶん好評だった。

よかった、ヘンテコどころか、これはかわいいものなんだと安心した。


赤ずきんちゃんといえば、私のたからものが、この絵本。

(『あかずきん』大塚勇三やく 堀内誠一え 福音館書店 1970年)

2歳のクリスマスプレゼントに母が買ってくれたもの。

この絵本でわたしは、このあかむらさきの「ぶどうしゅ」はなんておいしそう、
いつか大人になったら「ぶどうしゅ」を飲むんだ、と思っていた。

どんな味なのかしら、きっと、甘くて濃くて、おいしいぶどうの味がするはず。

大人になってワインを飲んだが、「これがあれか」とワクワクしたのに、
思ったような赤い色でも味でもなく、大層がっかりしたことがあった。

現実的に言って、想像上の味とぴったりのはずがないのだが、
この絵本を見ると、いまでもこのぶどうしゅへの憧れが、心の中に湧き上がってくる。

どこかにあの、夢の、ぶどうしゅがあるはず!


10年以上前、フランスにワークショップの研修に行ったときに、
パリの図書館のワークショップで取り上げられていて、
これは絶対に手に入れねば、と思った「赤ずきんちゃん」がこちら。

『le Petit Chaperon Rouge』
(Warja Lavater 絵 Aderien Maeght Editeur社 1965年)
ウォーリャ・ラヴァターによる、蛇腹式の絵本で、
文字はなくて、色違いの丸だけで赤ずきんやおおかみや森を表現している。
俯瞰した図がスタイリッシュな作品で、

物語の中の時間を強く感じさせる絵本。

丸で描かれる物語を美しいなあとじゅんじゅんにページを開いていくと、
突如現れる、おおかみにくわれるシーンは、
筋をわかっていても、おそろしくてぞっとする。
この本を出版したのは、マーグギャラリー。

子ども向けのワークショップでも、
絵本を通じて芸術を教えようとするパリの司書さんの心意気を感じた。

南仏にあるマーグ財団美術館、いつか行ってみたい。

マーグ財団美術館

https://www.fondation-maeght.com/

スニーカーのなる椿の木

椿は、冬の終わりにピンクの花が咲いては散って咲いては散って、
寂しい時期に目を楽しませてくれる。

そうなると、いつもは来ないメジロが番で来たり、ヒヨドリがそれを追い払ったり、
にぎやかな庭になる。

春の雪にも映える。

あたたかくなって剪定をした。

切った枝は、木のぼりに使う縄梯子の一段として使う。

まだ花がついているうちに切るのがよいタイミングで、
だけど、寂しいので一つだけ花を残した。

すると、数日後、葉の先からピョンピョン若葉が出てくる。

黄緑色が目にまぶしい。

 

普通、若葉は、古い葉の先につく。

こんなふうに。

だけど、

幹を見ると、幹から突然に、芽が!

切られて、焦って芽を出したのかしらと思う。

こんな武骨な固い幹から、柔らかな芽を出すとは、

植物の力とはなんとパワフルなことかと思う。

椿は、こうした成長をみせるものらしいが、

これをみると私はいつも、

ブルーノ・ムナーリの「どこのいえにも変わり者が一人はいて」

というのを思い出す。

変わり者が出てきたな、いいぞ、いいぞ。

 

春になると光がまぶしくて、それまで気にならなかったスニーカーの汚れが急に恥ずかしく思う。

ゴシゴシあらって、椿の枝にかけて乾かす。

ピッピの庭の木には、レモネードがなる。

わたしもピッピと同じように、スニーカーのなる木と来客を驚かしたい。


ブルーノ・ムナーリ『木をかこう』

アストリッド・リンドグレーン『長くつ下のピッピ』

 

アップサイドダウン ― 豊洲市場の旅

1週間に一度は、と言いながら時間があいてしまった。

これを書く意味は、などと考えているうちにやらなくてもいいのでは、などと暗い考えが浮かんでくる。とにかく、もう少し、やってみよう。


好きなYoutuberが豊洲に行っていたので、私も行きたくなった。

彼が行ったのは「千客万来」という観光施設だったが、
調べてみると、豊洲市場そのものの見学ができるらしい。

天気もいいし行ってみるか。

ゆりかもめは無人運転で、先頭は進行方向に座席が並んでいるから、ジェットコースターみたい。

これで、じわじわと登り、ゴーっと爆走したら・・・!

やってきました、豊洲市場。

英訳では、TOYOSU MARKET。

そりゃそうなんだけども、日本語と英語と表記が違うと同じものとは思えない。

TOYOSU MARKET、

急に地元のスーパーの名前みたい。

トヨスさんが創ったスーパー。


ゆりかもめを降りるとさっそくそこここに張り紙があって、矢印の先にはこんなふうに書いてある。

「青果棟」「管理施設棟」「水産仲卸売場棟」

「飲食店舗エリア」には店名も明記してある。

それぞれ英語表記が必ずあるのも、こうした外国人客に人気の場所ならでは。

よしよし、どこにいくかな、わたしが行きたいのはあの店だ、こっちだな、などと先を進むと、
またもや張り紙が。

「マグロのセリ見学 ⇒」

おお、マグロのセリも見学できるのか、そりゃレアな経験だろうよ。

すかさず、その下には、

「tuna auction ⇒」

え、ツナ オークション?

あ、そうかマグロってツナだったっけね。

けど、マグロとツナじゃ、ずいぶん違うものだなあ。

マグロっていうと、こんな感じ。

ドドーン! でっかーい。

で、こんな感じ。

うわああぁあ、うましょう、まぐろ尽くし!

で、セリと言えば、こうだ。

冷凍マグロがゴローン。

けど、ツナっていうと、

・・・

こんなの?

急に日常感が・・・。

外国人は、ツナーーーー!、すげーーい!とか思ってるんだろうか。ふふふ。


そんな、英語と日本語の感覚の違いに茶々をいれつつ見学したのだが、

実際には、インバウンド客のみならず、
大学の同窓会組織だろうか、大学の旗を持ったガイドさんについて歩くおじさんたちの旅行グループもいた。

東京の新名所として観光先になってるんだなあと感じた。

見学ルートがあって、市場を上から見られるようになっている。

市場の歴史を伝える写真もあって興味深い。戦争を経てねえ、なるほどねえ。

東京都政の長年の懸案であったのも、うなずける。

ターレと呼ばれる構内運搬自動車が走るのも見たし、実際に乗れた。(もちろん走れはしない)


マンホールも展示してあって、蓋活(ふたかつ)をしている妹のために撮影した。

「魚河岸」「粋」、そのほかに「目利き」「築地」も。

妹に見せると、事業排水や厨房排水はレアとのこと。

まあそうだろうねえ、普通の道路にはない。


その後、市場内の老舗カフェでアイスクリームを食べた。1914年から創業111年と書いてある。

これは私が倒しちゃったのではなく、こういうふうに出てくるセンリ軒の「 ミルコーソフトクリーム」。

最初コーヒーフロートかと思ったら、オールコーヒーアイスクリームだった。

暑い中、歩き回って疲れた体に、冷えた珈琲の味が沁みわたった。

帰りは「万葉倶楽部」に寄り、東京湾を眺めながら足湯に浸かった。

遠くにレインボーブリッジが見える。

この景色に似たところで生まれ育ったので、懐かしい気持ちに。

有楽町線で豊洲駅まで来たけど、いつのまにか、海の下を通ってきたようだ。

地下鉄ってずいぶん地下深く潜ってるんだねえ。

ヒサカキの謎 ー芝大神宮と増上寺の旅ー

謎が好きなようだ、と言ったことで
謎を無理に探そうと、かえって自分を縛ることになってきたので、
謎がるのもこれでいったん打ち止めにしようと思う。

今日はヒサカキの謎である。姫榊とも書く。

うちの裏庭にはヒサカキが植わっていて、ちょうどこの時分、花が咲く。

庭仕事をしていると、なにやら強烈な、でも懐かしいような香りがするとそれがヒサカキの花で、

なんだっけ、これ、そうだ、たくわんだ、と思い当たると、もうたくわんにしか思えない。

緑の葉の陰にびっしりと鈴のような花を咲かせる。

ちょっと見には気づかないほどの小ささで、
外観と香りがそぐわず、
当初、このかそけき花がこれほどの強烈なにおいを発するとは信じられなかった。

ヒサカキについてよく言われるのが、
サカキ(榊)は、関東以西の温暖な地域でしか育たず、
関東以北ではその代わりとしてヒサカキ(姫榊)が神事に用いられる、という話である。

ふむ。ならば、この時期、東北の神社では、たくわんの匂いでいっぱいなのであろうか。

嫌いな向きもいるようだから、ヒサカキの森ともなれば、それはそれは大変なことであろう。

ハハ、冗談、じょうだん。


さて、過日、新しいことを始めようと思い、芝大神宮へ行った。

芝大神宮
https://www.shibadaijingu.com/

参拝を終え、東京十社巡りのミニ絵馬を求めた。

東京十社巡りはこちら。

東京メトロ24時間券でいく「東京十社めぐり」

ベンチで一休みしていると、お、これは! あの匂いではないか! 

背後から香ってくるのはまさしくたくわんの香り。

振り向くと、おお、やはりあった。

白い花がうつむいている。

ならば、芝大神宮は、ヒサカキの森なのか。

これがほんとの冗談から駒か、などと思ってよく見てみると、

手水舎の後ろにはサカキもヒサカキもあるのだった。

 

それに第一、ヒサカキばかり植わってはいない。

椿も桜も植わっている。

ヒサカキの森などと心配することはなかった。

だが、関東以西でしかサカキは育たないとか、関東以北ではヒサカキが用いられるとか、
いろいろ言われているが、
この際、本当のところを調べてみようと思った。


そして、それはあっけなくわかった。

森林総合研究所

サカキの分布図
https://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/prdb/sakaki.html

ヒサカキの分布図
https://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/prdb/hisakaki.html

予想に反して、さほど明確には南北が分かれてはいなかった。

それどころか、そもそも、ヒサカキも北陸、中部、東北の内陸には見られない。

寒さに弱いのだろう。

じゃあ東北の神社では何を神事に使うのかしらん、
という謎は私の手に負えなそうなので、そっとしておく。

亡父の墓は神道なので正しくは奥津城といい、
墓石の後ろにうちのヒサカキの挿し木がうまく根付いたので、
今年はサカキも植えるつもりである。

大きく育てば、奥津城参りに使えそうだ。


その後、増上寺に向かう。

増上寺
https://www.zojoji.or.jp/

大殿で焼香をする。

椅子が並べられていて、それへ坐る。
磨き上げらえた黒い床と金色の本尊を見ていると、
焼香のよい香りがただよってきて、
ずっとここにいたくなるような心持ちに。

ここはいいところだなあ、また来よう。


増上寺の隣りには都立芝公園がある。このあたりは空が広いなあ。

開花はまだだが、ピクニックしている人がたくさん。

花はなくとも、天気がいいほうがいいものね。

花見客を横目に見ながら、都内最大級の前方後円墳「芝丸山古墳」に着く。

そばに、突如、大きな虎の像が。

うっわ、かっこいい、寅年だから、虎は好き。

広場には稲荷神社があり、「増上寺の裏鬼門にあたる芝丸山古墳にあり」という文言を見、

あれは裏鬼門を守る、白虎ではあるまいか。

お、初桜発見! 開花日よりも前だったので、特にうれしい。


帰りがけ、新橋の「香川・愛媛せとうち旬彩館」に寄る。

みきゃんの靴下を探すも、みきゃんはなかったが、こみきゃんの靴下を発見。

見た目が小さくスタイの隣りにあったので子ども用かと疑ったが、ちゃんと大人用だった。

先日、道後温泉のどこかで買おうと思っていたが、案外に夜が早い町で、
夕食を食べているうちに軒並み土産物屋が閉店してしまい、涙を飲んだのだ。

ほくほくと帰途についた。

道後温泉旅行はこちら。すっかりみきゃんのファンに。

夢の蛇口みきゃんジュースー新春道後温泉旅行(12)

サワーポメロのマーマレード

食卓に甘き霧立つ志布志よりのサワーポメロにナイフを当つる
 嘉代子『飛鳥』より

志布志はしぶしと読む、父の出身地。

父の古い友人から今年も届いた、

鹿児島ではサワーポメロ、宮崎ではパール柑。

見た目はすっぱそう。食べるとそうでもない、うん甘い。

ツブツブしてて食べやすい、

プチュっと飛んだりしない。

さっぱりしていてサラダにも。

めずらしいものだもの、

せっかくだからマーマレード作ろうよ。

ちなみにジャムは果肉を煮たもの、

マーマレードは皮も入ってるやつのこと。

みんな知ってると思うけど

一応ね。

今回は皮だけで作る。実は食べちゃったんだもん。

うまくできるかしら。

 

皮を2ミリ厚で切る。白いとこはつけたまま。

水に一晩つけて おやすみ、また明日。

水で洗うと黄色い水が出る。

これがアク。

あんまり洗いすぎちゃって 味まで抜けたらどうしよう。

3度洗ったら、お鍋で煮る。

 

梅で作ったときはきび砂糖にしたら、ずいぶん色がついたから

今回はこの薄い色をそのままにしたくてグラニュー糖にした。

種を袋にいれて一緒に

コトコト煮る。

ちょっと目を離したら

わああ

焦げそうだ。

まだまだだねえ 追加で水を足す。

水がなくなってきたら、出来上がり。

果肉がないからトロトロしてないねえ。

こりゃ種入れなくても変わらなかったかもな。次はいれなくてもいいか。

甘みが控えめで美味しいねえ。

あんなに水で洗っちゃったのにちゃんと味がするよ。

双六の謎 ー 岩槻の旅・続 ー


岩槻人形博物館「紫壇象牙細工蒔絵雛道具」

https://ningyo-muse.jp/modules/collection/index.php?action=PageView&page_id=7&filenum=zoomify01

「かわいいなあ、ちゃんと将棋の駒もあるよ」などとのんきにミニチュアの精巧さを愛でていたが、

そこで謎の物体を見つけるのである。

雛道具で、三面揃というのがある、
双六盤、碁盤、将棋盤の三つをいう、とある。

ふむ。

将棋と囲碁はわかる、これとこれだ。

じゃあ、残りのこれが、双六盤ってことになるが・・・?

なんかチガウ。これナンダ?

あの黒い枠はなんだ?

上に乗ってるのは、亀の甲羅にも見えるし、酒の入った革袋のようにも見えるし、鐘のようにも見える。

よほど小さく、展示ケースに頭を近づけ、目を細めてみても、何やらわからぬ。

とにかく、見たことがないものだということはわかった。

私の知っている双六は、マス目に絵が描いてあって、
さいころを振って出た目の数だけ駒を進めて、上がりを競うやつだ。
一回休み、とかあって。

それなのに、これはなんだなんだ、へんだへんだ、なんだあれは、と思ったが、

まあ、いいや、と特に調べることもなく、日々を過ごしていた。


そんなこんなで1年ほど経った頃だ。

アッと思ったのが、NHK大河『光る君へ』である。
ちょっと待った! 今のシーン!

指をさして大きな声を上げた。

なんと、左大臣と倫子が部屋でアレをやっているではないか!

なるほど、あの筒にさいころを入れて、振るのだな、

あんな感じに白と黒の駒を置くのか!
これが双六かあああああ!!!

食い入るように見、何度も巻き戻した。

ははあ、あの謎の物体は袋で、さいころと駒が入っていたのだな、とわかった。

頭の中の引き出しで眠っていた謎が、音を立てて躍り出してきた夜だった。

国会図書館によれば、盤双六は絵双六とは別の遊びで、
5~6世紀ごろから流行したが江戸時代には廃れた、とある。

今回は、ワトソンではなく、ちゃんと謎が解けたぞ。

もっと詳しく知りたいシャーロックはこちらを。
◎国会図書館>本の万華鏡第12回 紙の上の旅・人・風俗-江戸の双六(すごろく)-
https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/12/

◎大阪電気通信大学 木子研究室 「古代盤上遊戯」
https://www.osakac.ac.jp/labs/kishi/yuugi.html

◎和樂web

ゴールは玉の輿?江戸時代の女性向け「すごろく」遊び方や用語を徹底紹介!

犬筥(いぬばこ)の謎 - 岩槻の旅

謎、というのが私は好きみたいだ。

その割に、自分はワトソンなので、全然解決しないのだけどね。


今回の謎は、犬筥(いぬばこ)についてである。

こないだ、さいたま市岩槻の人形博物館で展示を観ていて、ふと思った、
犬筥って以前は普通に雛段にあったお道具らしいけど、
最近、見かけないよね。

正直、私は展示を観るまで知らなかった。

犬筥とは、安産、多産の象徴である犬の形をした張子の箱。

単体としても飾られたが、雛人形とともに飾られることも多かったようだ。

岩槻人形博物館
https://ningyo-muse.jp/


男雛、女雛の膝元に、かわいいのがちょこんといる。あれが犬筥である。

日本で初めて人形にサインを入れた
久保佐四郎によるミニチュア雛「御部屋雛」(明治~大正時代)にも、

野口光彦による「稚児雛十五人揃」(昭和時代初期)にも、

東京日本橋の豪商でコレクターの天野家雛段(大正時代~昭和時代)にも、

犬筥はあった。

だが、東玉大正館で展示してあった「木目込人形十五人揃」(昭和中期)には、ない。

東玉大正館
https://www.city.saitama.lg.jp/004/005/006/001/016/p005876.html

私が持っている雛は、高度成長期に流行った典型的な7段飾りだけど、やはり犬筥はない。

一方、左近の桜と右近の橘はある。

このようなセット売りは、デパートが発案したものとされている。

そのときに採用されたか否かが分岐点になり、
このセットが多く流通する中で、犬筥はなくなってしまったのかもしれない。

流行から外れ、いつのまにか忘れられそうになっているこの犬筥、
華やかな吉祥文様が縁起がよく、
よく見ると表情もいろいろで、かわいい。

友人は、犬筥ばかりコレクションしている。


天野家の犬筥

久保佐四郎による犬筥、こんな小さなミニチュアにも。

野口光彦による稚児雛の犬筥。

人形博物館の目玉、西澤笛畝コレクションの犬筥、は今回は展示されず。

だが、小さいのは単体で展示されていた。

それでうちでは、犬筥がない代わりに犬筥の屏風を作って飾ったのだ。

 

詳しい話はこちら。

母娘3人、みんなの雛祭り

3番線ホームの謎と団体臨時列車 相撲列車とサンタ電車 ― 両国の旅(続)

先日、両国の旅について投稿をしたあと、ちょっと気になったことがいくつかあった。

デザインマンホールに登場する「ハッキヨイ!せきトリくん」とはいったい?

調べると、日本相撲協会のキャラクターらしい。

巡業レポートをしたり相撲部屋を訪問したりしている。

日本相撲協会TOP  > ハッキヨイ!せきトリくん

まんがもある。ひよの山という新弟子が、上京し初土俵を経て勝ったり負けたりする成長物語。
相撲用語の解説もあって、おもしろい。

ちょっとといいつつ、全436話読んでしまった。

まんがハッキョイ!せきトリくん
https://www.sumo.or.jp/SekitorikunComic/index

その中に、気になるセリフが。

「昔は、相撲列車なんてのも、あったんだぞ。」と先輩力士が主人公の新人力士に言う。

欄外の解説には

「巡業などで力士の移動のために仕立てられる臨時列車の事。現在でも全車両を貸し切りにする場合にいう。」

とある。(88話

なに! もしや、これが、両国駅の3番線ホームの謎では・・・?


先日の投稿で、

両国駅の3番線臨時ホームについて、これは何のためのホームか詳細不明と書いた。
投稿後、気になったことの2つ目がこれだった。

あのホームは、その「相撲列車」の発着に使われているのではないか?

お相撲さんたちが両国に集合して、どやどやと電車に乗り込んで全国に巡業にいく、考えるだけでも楽しい。

昨年末私は、サンタの扮装で列車を貸し切って仕立てた「サンタ電車」に乗った。

その日、14時43分三軒茶屋発の東急世田谷線はサンタクロースで満載で、
目に鮮やかな赤と白の衣装に、
街ゆく人は驚くやら、手を振るやら、非日常の出現に笑いだす人も。

それの力士版だ。そりゃ、壮観だろうなあ。


さて、とにもかくにも「相撲列車」なるものがあるのがわかった。

本があった。『大相撲と鉄道 きっぷも座席も行司が仕切る!?』(交通新聞社 2021年)

https://www.kotsu.co.jp/products/details/601158.html
現役行司の書いたこの本で、はたして、両国駅の謎は解決するのか?

頁を開くとさっそくあった「第一章 相撲列車は、こんな列車だ」

相撲列車について詳しく書いてある(P.31~)。
各鉄道会社の規則規定にのっとり、日本相撲協会が団体券を使って利用する団体列車で、
全車両を貸切る団体臨時列車や一部貸切も含む・・・といってよさそう。本当はもっと細かい。

読み進めると、ついにあった、両国駅の3番線ホーム。

「(前略)1・2番線のホームが総武線各駅停車、
3番線が自転車&サイクリスト専用のB.B.BASEなど臨時列車の発着ホームとして
使用されています」と、駅長が教えてくれました。(P.176

もともと、両国駅は旅客、貨物ともに輸送の拠点として巨大な駅だったが、時代とともに縮小し、
3番線ホームは、平成22年、新聞輸送列車を最後に、定期列車の発着はなくなったとある。(P.185)

※B.B.BASEは、両国駅と千葉県房総半島を結ぶ、自転車を解体せずに持ち込める列車
正式名称「BOSO BICYCLE BASE」

私は、大阪、名古屋、福岡へあるいは地方巡業に行くのに、
両国から相撲列車を仕立て、総武線の線路を使って
東京駅までみんなで乗っていったのかなと思っていたのだが、
3番線ホームが相撲列車に使われたかどうかについては言及がなかった。
現在、相撲列車としては、年6本の東京発着の新幹線のほか、地方巡業でいくつか、とある。

部屋も各地にあるから、両国に集まらないで、東京駅集合なのかもしれない。

だから、3番線ホームへ向かうあの赤いカーペットについても謎のままだ。


余談だが、団体列車について、わかったことがある。

JRによる団体の種別中に、相撲協会団体と並んで遺族団体という表記がある。

団体<普通団体<特殊取扱団体<特殊団体<自衛隊団体、在日米軍団体、相撲協会団体、
新規学卒就職団体、遺族団体(P.114の表より)

亡くなった私の祖父は某県日本遺族会の会長を務めていて、
駅長と相談しにいった、とよく母が話していたが、
そういうことだったかと得心がいった。

著者の木村銀次郎さんのように、手配に奔走していたのだろう。

子ども時代は知らなかった祖父の仕事ぶりを、この本によって垣間見ることができた。


昨年末、サンタの扮装で列車を貸し切って仕立てた「サンタ電車」に乗り込んだが、
あれがつまり団体臨時列車だったわけだ。

実際に乗った側として思ったことを書こう。

世田谷線は、三軒茶屋駅と下高井戸駅を結ぶ東急線の鉄道。
サンタ電車は、さっきのJRの規定で言うと「団体臨時列車」ということになる。
同一団体が、全車両ごと貸切って、通常ダイヤ以外に運行する列車である。
貸切にかかる費用は、みんなで出し合えば十分可能な額。

もちろん、何でも貸し切れるわけではないが、
代表者によるとチャリティ活動ということで可能になったそうだ。

三茶駅前で募金を呼び掛けている様子。

通常、三茶駅の、西太子堂方向向かって左側が、乗るホーム。

だけど、臨時列車なので、特別に右の扉が開き、右のホームから乗るように指示された。

というのも、普通のお客さんが間違って乗っちゃうといけないから。

団体利用なので、SUICAもきっぷも使わない。これも相撲列車と同じ。


いよいよ入線してきた、招き猫のラッピング列車を用意してくれたというのがうれしい。


通常の時刻表では、下高井戸方面へは、14:42 の次は14:48発。
その間の14:43に我々の団体臨時列車は発車するダイヤになっていた。

さあ、出発だ。サンタたちは、次々に乗り込んでいく。

向かいのホームのお客さんたちは、
サンタだらけの2両の列車が停車しているものだから、目を丸くして見ている。

それへ私たちは車窓越しににこやかに手を振る。

列車は、三軒茶屋駅を発車し、終点の下高井戸駅まで行き、三茶まで戻る。

この往復の間、扉はいっさい開かず、運行する。

やはり普通のお客さんが間違って乗っちゃうといけないからね。

それで、途中駅では、扉は開かないが、停車はする。
乗ろうとホームで待っているお客さんは、

突如、サンタで満載の列車が到着して一瞬、戸惑う。

ベンチに座っていたおばあちゃんが笑いどおしなので、私たちも大いにうれしい。

東急線の線路上で作業している職員さんも手を振ってくれる。
私たちは歌を歌ったり鈴を振ったりする。

およそ14:43~15:24の1時間、サンタ電車は、非日常を提供した。

団臨の相撲列車も、たぶん、こんなふうじゃないかと思う。

駅では停車はしても扉は開かず、ホームの人を驚かし、笑顔で手を振って。


ほんとのおまけのおまけ。

『やっぱり猫が好き』で、相撲部屋が恩田3姉妹の家の上階に引っ越してきた、という話がある。

相撲部屋の名前は「トリカゴ部屋」で、登場する若い力士の四股名は「若雀」。

「せきトリくん」と聞いたときに、あれを思い出したが、関取と鳥のダジャレなんだね。

「やっぱり猫が好きVol.8」(ポニーキャニオン)
https://www.ponycanyon.co.jp/visual/PCBC000050249