旅程決定ー新春道後温泉旅行(4)

この調子だと、まだまだ出立できぬ、もっとどんどん行こう。

結局、旅程はこのようになった。

1日で行って帰ってきて

新宿発19:50 高速バス
道後温泉着翌日8:05
◎道後温泉本館
↓ 徒歩18分
◎石手寺
↓ 徒歩14分
◎松山市立子規記念博物館
↓ 徒歩23分
11:30ロープウェイ
◎松山城
昼食なべ焼きうどん
12:20リフト
↓ 徒歩5分
◎秋山兄弟生誕地 
↓ 徒歩8分
◎萬翠荘
◎漱石珈琲店愛松亭
↓ 徒歩20分
◎子規堂 正宗寺境内
↓ 徒歩5分
松山市駅
↓ 伊予鉄高浜線17分
梅津寺駅
◎瀬戸内海
◎みきゃんパーク
梅津寺駅
↓ 伊予鉄高浜線17分
松山市駅
↓ 路面電車7分
道後温泉駅
◎道後温泉別館飛鳥乃湯泉
◎夕食 鯛めし
↓ 路面電車7分
松山市駅
高速バス19:45発
新宿着翌日8:05


ふう、まだ家を出てもいない。

もう少し、ペースアップするか。

いや、もう少しゆっくりでもいいか。

私の熱が失せてしまうのが心配だ。


というわけで、おとといのクイズの答えは・・・これです。

JR東海富士宮駅のスタンプが仲間外れ。初詣に行った時のもの。

それ以外が、今回の道後温泉旅行のスタンプです。

左上はバスタ新宿。それ以外が松山市で押したスタンプたち。

子規が存在感あるなあ。あの頭部はスタンプにしやすそうだ(失礼)。

なぜ道後温泉旅行かー新春道後温泉旅行(3)

毎日、書こうと思っているのに、できなそうだった、あぶない、あぶない、とにかく書くぞ。

タイトルがやっと出た。前の2つが、書いてないけど、それぞれ1と2だ。


旅をするのは決まったけど、どこにしようかなかなか決められずにいた。

だが、思い出したのだ、自分は漱石と『坂の上の雲』が好きだったと。

そうだ、道後に行こう。そう思った。

毎日寒くて、わたしは寒さが恐怖なので、

年末年始の人気の旅先という特集で雪の風景を見るたびに、文字通り震えあがった。

四国なら、暖かそうだ。それに温泉があれば、万々歳。

あまり無理せず、温泉だけ浸かって、あとは秋山兄弟の家を訪ねて、

またトンボ帰りで帰ってこよう。

そうだ、そうだ、そうしよう。

 

自分に刺激を与えるには、できれば、新しい行ったことがないところに行きたかったが、

行ったことがないところは、どうやって興味を引き出せばいいのか。

日々、淡泊に暮らしているから、

どんなところなんだろう、いいなあ行ってみたいなあ、

そういう欲が心のうちから湧き上がってこない。

道後温泉は過去に2回行ったことがある。

一度は子どものころ家族と、もう一度は若いころ仕事で。

また行ってみるか。


新宿から深夜バスで12時間、朝から温泉は開いている。

さっぷりと入って、できれば瀬戸内海を見て、帰ってこよう。

そう思っていたのに、いろいろ調べるうちに、あっちもこっちも行こうと

旅程はぎっしりになってきた。

しめしめ、欲が出てきおったな。

 


あっ、できれば、写真は1枚はつけたい。上の原稿だけだと、写真がない。

というわけで急遽、付けたしをした。


旅に行くのに、実はもう一つ候補があった。

12月に是枝監督『奇跡』を観た。

作中、かるかんが重要な役割を演じている。

鹿児島は父の出身地で、

かるかんは、母が亡父の挽歌の歌集の歌評を書いてくださった方などに、

亡夫の故郷のもので、と言いながらよく送っている。

ほんのり甘くて、うちは明石屋がお気に入りだ。

手に入りにくいためか、

初めて食べてとてもおいしかったと

大変好評であるという。

鹿児島には祖父母の家があったが、子どもだから、家の周りで遊ぶばかり。

行ったことがないところだらけだ。

桜島も見たいし、霧島神宮も行ってみたい。

温泉もあるしな。

 

だが、鹿児島へは高速バスはないのだ。

それは困る。あまりお金がかかるのは困るのだ。

フェリーも直通はない。

父の若い時とは比べ物にならないが、鹿児島はまだまだ遠いなと思う。

それで、今回は鹿児島は見送った、という経緯があった。

母から年賀としてもらった明石屋のかるかん。

そんなわけで、うちでは年に一度は必ず食べることになる。

映画の中では、孫からせがまれて、という体で買いに行くシーンがある。

旅のスタンプ

とにかく、できるだけ、まいにち、かこう。


これからどうしようと思っていた時ふいに

旅にいったら、と知り合いに言われた。

最近、欲が減退している気がする。

したいこともないし、いきたいところもない。

旅と言われて、困った。

困ったけれども、といって、やることもないので、

じゃあ行くかと、企画したのが、

「新春道後温泉旅行」。

くふふ、やる気がないわりに、華やかさがあっていいね。

行ってくると言ったら文学好きの母は

「いいなあ、漱石と子規!」

と言う。

家人は

「鯛めしとうどん」。

性格が出るねえ。

まあ、私は

「好古と真之」だけども。

 

ところで、旅先によくあるスタンプっていうのは、

コロナ禍を乗り越え、このデジタル時代でさえ本当にいろんなところにある。

あると、なぜだか押したくなる。

このスタンプを思わず押したくなるっていうのはなんだろうねえ。

けど、帰ってきたらなぜだかもう気がなくなって

スクラップ入りかどうかの選考に落ちる傾向が高いから、もういいやと思っていたけど、

今回は「1月のノート」にペタペタ押すことにした。よい思い出ノートになった。

 

どうしてこうまで

どこにもここにもあるんだろうか。

不思議。

ノートをじっと見る。

ふうむ、これはあれだね、パスポートのハンコだ。

どこどこに出国しました入国しました、というあれだ。

粗雑に扱われてるはずなのに、細くて繊細な線が出ていて、ほほうと思う。

 

ここでクイズ、一つ仲間はずれがいます。どーれだ?

手紙 子規堂見学で

基本的にはblogでは制作のことだけにしようと心に決めて、

しばらく書いていなかったが、もう一度書いてみようと思う。

書けるかわからないけど、ちょっとずつ、書いていってみよう。


古い友人から年末に手紙が届いた。

郵送するものがあるついでに、元気かと問う添え状があって、

心沈むときだったから、よりこたえた。

会いたいねというから、今すぐ会いたくなった。

ずいぶん会ってないから、いざ会うとなるのはいつかわからない。

でも、そういう人がいると思うだけで、心が温かくなった。

そういえば、昔はよく手紙を書いたなあと思う。

学生時代ごろまでは友だちと手紙をやりとりしていた。長い休みの間とか。

年末の掃除で、手紙の箱が出てきた。

今は手紙など書かないなあと思う。


先日、松山の子規堂を見学した。

幼馴染の秋山中将にもらった布で作った座布団が手紙と一緒に展示してあった。

こういう研究は今後はどうなっていくんだろうと、ふと思った。

送ったよというメールを見つけたとして、メールはデータだから、展示のときは紙に印刷して?

まさかね!

 

子規堂にて

母の歌集の表紙カバーに作品を提供しました!

この度、母が歌集を出版し、表紙カバーに私の作品を提供しましたので、お知らせいたします。

歌集『飛鳥』(ひてう) 原口嘉代子

母は、現在80歳、佐佐木幸綱門下の短歌結社に入会して23年になります。
夫(私にとっては父)を悼む挽歌を中心に、
子ども時代から現在に至る人生の折々について、これまで詠んできた歌を編んだ歌集です。

歌集名「飛鳥(ひてう)」は、王維の漢詩から採ったものです。

華子岡(かしこう) 王維
飛鳥去不窮
連山復秋色
上下華子岡
惆悵情何極

飛鳥(ひちょう)去って窮(きわ)まらず
連山(れんざん)復(ま)た 秋色(しゅうしょく)
華子岡(かしこう)を上下(じょうげ)すれば
惆悵(ちゅうちょう)して 情(じょう)何(なん)ぞ極(きわ)まらん

秋の山に飛び去る鳥の姿をながめていると、
亡くなった人への思いは限りない、という意味の詩です。
この五言絶句の世界にふさわしいものを、と
朱色の紙を巻いたようなクラシカルなデザインにしました。

私が提供したのは、2019年ごろ取り組んでいたシリーズ、
和紙にインクの染みを広げ、その上にドローイングを描いた作品です。
思考がつながり飛躍し重層的に重なっていく様子を表現したもので、
歌集のテーマである、さまざまな思いが重なる長い時間の記憶とも呼応すると自負しております。

1年半前から妹と三人、母の家に集まり、あるいはオンラインで会議を重ね、
内容もカバーも含め何度も打ち合わせしてきましたので、
届くまでずっと緊張し通しでしたが、
想像以上の出来上がりに嬉しさと安堵感がこみあげているところです。

帯文を書いてくださった佐佐木幸綱氏は、私の大学時代のゼミの教授でもあり、
母と私二人にとって万感胸に迫る歌集になりました。

現在、出版社の新刊案内に掲載されていますので、どうぞご覧くださいませ。


ながらみ書房 原口嘉代子歌集『飛鳥』

原口嘉代子歌集『飛鳥』(ひてう)
出版社:ながらみ書房
発行日:2024/09/01
作者:原口嘉代子
定価:2,860円(税込)
判型:A5判上製カバー装
頁数:224頁
ISBN978-4-86629-337-0
https://www.nagarami.org/

(ながらみ書房 ウェブサイトより)

君よりの長き手紙を読むやうに炉辺(ハース)にひとり炎見つむる

曽祖母も祖母母我も張り継ぎて障子よ清し百年の家

紀の国を初めて旅し木と水と石より成れる土地と知りたり

名詞が多く、なかんずく固有名詞が多い歌集だからだろう、めりはりがきいて輪郭のすっきりした歌が多い印象である。歌集には、家族をはじめ多くの人名が歌われ、多くの地名、多くの具体的事象が歌われている。あくまでも具体的な点が特色である。さらに私が注目したのは、作者の好奇心の強さと、行動力である。縄文杉を見るためにわざわざ屋久島まで行った歌、髙橋真梨子の最後のコンサートに行った歌などがあって驚かされた。
—————————————————–佐佐木幸綱 帯文

屋久島の真青の海を胸張りて直線にとぶ飛魚の群

秋植ゑの葱すんすんと伸びあがる春雨降らす空に向かひて

ひもすがら古本屋街歩きにき一冊の本とラドリオの珈琲

廃線の転轍機ギと動かして幻の汽車来さしめむかな

腕組みてかの月見台に立ちをらむ文届けかし雁に託せば


提供作品:
原口比奈子《思考が流れ、飛躍し、重なる》部分雁皮紙、インク 97×150cm 2019

知人の個展の小冊子に寄稿しました

友人の個展の記録小冊子に寄稿しました。

『花輪奈穂写真展「gathers and spillages 〜付加体と礫〜」』

表紙は花輪さんの写真作品。縞々になった地層が盛り上がっています。迫力!

主な内容 (52ページ)
・はじめに
・misaki photo exhibitionとは
・花輪奈穂写真展「gathers and spillages 〜付加体と礫〜」の記録
・現代美術作家 原口比奈子寄稿「私たちは地層を見るのではなく地層を体験する」
・作家トークその1「場と制作、そして鑑賞の『気持ちいい』負荷」
・お茶会で聞いてみた「三浦の好きな場所」(グーグルマップ付き)
・展示のあけすけ(準備の流れ、かかったお金、トラブルなど大公開)
・作家トークその2「観る作る発表する、の私たちの場合」
・グラフィックデザイナー 矢口莉子寄稿「あるものと、あたらしいもの」
・あとがき
・謝辞


私は、この一連のプロジェクト「misaki photo exhibition」の 第2回目の花輪奈穂展について寄稿しました。

図録には、作品の写真もたくさんあるのはもちろん、
トークイベントの書き起しや写真のワークショップの様子もあって、
会場の臨場感が伝わってきて読んでいて楽しい。

そもそもZINEそのものが変わった形をしている。
ジャバラ状になった表紙のオモテウラに写真作品が大胆にレイアウトされていて、
中に、綴じられた別の冊子がゴムではさまっている。
個展では、鑑賞者がかがんだり、首を斜めにして観る作品が会場に展示してあって、
このZINEも同様に、斜めのタイトルは頭を横にして読み、ャバラを開き、裏返し、
というように、読者に特別な運動を要求している。

私の原稿のレイアウトもそうだ。
斜めになった三浦の地層のようなデザイン。
褶曲するようにズレて始まる文頭の文字。

不思議なことだけど、この小さい図録の作品を観ていると、
花輪さんの個展に行ったような気持ちになる。
たぶん、掲載されているっていうより、再構成されていると感じるのだと思う。

それは主宰の阿部さんの狙いどおりだったなあと思うと、
この冊子にかける彼女の思いにジーンとなる。

そういうものにかかわれて本当によかった。

 

私が寄稿した原稿「私たちは地層を見るのではなく地層を体験する」
拡大すると読めます。

 

詳しくはこちらに書きましたので、あわせてご覧いただければ幸いです。
※現在、クラウドファンディングは終了しています。

寄稿した写真展記録小冊子のクラウドファンディングが始まりました「misaki photo exhibition」

 

フィンランドセンターの編み物クラブの6周年パーティ

そういえば6月、ちょうど都立図書館での展示が終わったころ、
フィンランドセンターの編み物クラブの6周年パーティがあった。
すっごく大きいケーキが2つ、ワーオ!
みんなでお皿に取り分けて食べていると、
ぐりとぐらのカステラを森のみんなで分けているシーンみたいだった。
Onnea!(オンネア フィンランド語で「おめでとう!」)

 

ケーキ入刀しているのはセンターの所長。
私に本当に良くしてくれた所長がこのたび、任期満了で退任と聞き、寂しくなって急に投稿した。
コロナ禍を私が乗り越えられたのは、じつに編み物クラブと所長のおかげだったから。
月1回のZoomのクラブが私の励みになり、編み物に没頭した。
まっすぐしか編めなかったのに、あの難しい靴下が編めるようになったのはすごいことだ。
今やセーターだって編んじゃうんだからね!

毎回、おやつとコーヒーを頂きながらのフィンランドの文化についてのレクチャーがあり
(カルダモンを加えるコーヒーとシナモンロールが絶品!)、
ムーミンの原著の朗読や、
毛糸メーカーのNOVITA社の担当者からのホットなニュースも楽しかった。
フィンランドのアートレクチャーや文学トークイベントにも参加した。
何より、いつも明るくパワフルな所長の姿を見ていると、
こちらの鬱々とした気持ちがいつのまにか晴れ渡ってるのだった。
元気出していこ! 未来は明るい! まっすぐ歩いていこう! そう思えた。

トーベ・ヤンソンの夏の別荘へのヴァーチャルツアーも忘れられない。
20年以上前、それをテーマに作品をつくったことがあった。
いつかフィンランドを再訪したら、絶対に行ってみたい。

前にフィンランドに実際に行ったのはアアルト建築ツアーで、
当時はトーベ・ヤンソンもムーミンもほとんど知らなかった。
たまたまタンペレ市を訪れてムーミン美術館にも寄ったのがきっかけだった。
美術館が良かったから、帰ってきて読んでみたら、おもしろくておもしろくて
夢中になってわああっと読んだ。


お土産にいただいたバラとムーミンの毛糸も。

都立図書館での展示と、クラブで編んだ「ストロムソセーター」とその編み図を作ったニット作家本人によるWSはこちら。

フィンランドセンター編み物クラブによる「グラニースクエアプロジェクト」が東京都立中央図書館内で展示されます

展示観てきました! 私たちの編み物クラブによる「グラニースクエアプロジェクト」

strömsö sweater

セミの羽化観察大会

今夏の観察日記第2弾、セミちゃんの登場である。

裏庭には、蝉の幼虫がはい出たあとの穴がよく開いている。
でも、セミが羽化する瞬間を見たことがなかった。
成虫がミンミンジージーツクツクとなき、ブブブっと飛んでいくのはよくみても、
どこにいるかわからない、しかもちょうど今年成虫になる年数の幼虫を土中から採集するのはむりだろう、
つまり飼うのはむりだと思っていた。

裏庭 シイの木の根元 アジュガのそばにある蝉穴 こんなのがよく見られる

ところが、今夏、それを人生ではじめて目撃することになった。

家人が帰ってくると玄関前にひっくりかえってもぞもぞしている茶色の虫を見つけたという。

あ、これは蝉だ、それも羽化しようとしている!と瞬間的に思ったそうだ。
わたしからすると、ゴキブリとよくまちがわなかったものだ、というような形状だが、
アゲちゃんのことがあるから、これは羽化を手助けするべきだと思ったそうだ。

そう、アゲちゃんの、羽化する前と、サナギになる前の様子に似ていた。

焦っているのに、体が丸くて重くて、なかなか起き上がれない。
しかも、どこからやってきたのか、玄関前のタイルの上だから、
自然の中ならあるはずの雑草の葉っぱやら茎やらこんもりした土もなく、
なにもつかまるものがなくて、足をバタバタするばかり。
こりゃ一大事、とユリの支柱にしていた細い竹を引っこ抜き虫に近づけると、つかまった。
そのままそっと、裏庭まで運び、金木犀の枝に載せてやったというのである。

そんなわけでうちの裏庭で急遽開催された、セミちゃんの羽化観察大会である。
世間ではパリで開催される世界規模の体育大会を見ているときに、うちでは、庭先でセミの羽化を見るということにあいなった。

発見が7月29日18時ごろ。まだ明るい。竹の細枝をよじよじと登っていく。
茶色いゴキブリに似ているが、体は厚みがあるのが大きな違い。
前2本が大きくカニのような手をしているので、全体にちいさいエビのようだ。
竹はつるつるしているのか、やりにくそうにしているのもかわいらしい。
竹を寄りかからせた金木犀の枝にうまく移ってくれた。
葉に邪魔されながらもうろうろと登っていく。

アゲちゃんのことがあったので、気に入った場所を探しているのだろうと察せられた。
途中、アリが体を這いまわるのをいかにもいやそうに手で払ったりしている。

わたしたち人間も、寄ってくる蚊を同じように手で払う。
一緒だ。
蚊取り線香を焚きたかったが、セミちゃんも追い払っては元も子もない。
我慢することにする。かゆい。

もう、その辺にしとけよ、と思うのだが、気に入らぬようで、細い枝に移ったりしている。
葉っぱの裏に取り付いて、さかさまになったりしている。やめとこうよ、それは。

ここにするかと決めて静かに落ち着いたところへ、
またもやアリがやってきて背中をはい回るので嫌気がさしたのか、
またもぞもぞと移動を始める。
そんなちいさいアリなんかほっとけ、と思うが、人間だって蚊がいたらやだもんな。
だが、そんなことでタイムアップになっては、とこちらはハラハラする。
体が固定しないまま羽化がはじまっては失敗するかもしれない。

私もちょっとは手伝おうと、アリが這い上がるのを、指で払ったりしていたが、
テキは2匹、アリの道ができているのか、いつのまにかやってきている。
セミちゃんはアリを払っているうちに、手が離れておっこちてしまった。
あっ!

どこいった、おい。
草をかき分ける。
いない。
むやみに動いて、セミちゃんを踏んづけてはと思い、動けない。

おいおい。どこだどこだ。

いた。いたが、またひっくり返っておる。

大慌てで、雑草の茎で救出を試みるも、セミちゃんの足の力はわりと弱いらしく、
簡単に手が離れてしまうのだ。体が重いのかもしれない。
何度かトライしても失敗しているうちに
あまり人間が手を出すのもよくない、足が折れたら大変だ、自然に任せようと思って見ているうちに、
なんとかこんもりした土を背に起き上がれた。よしよし。

そして、またけなげによじよじと登っていく。
これぐらいの太さのある幹にはうまく手がかかるようで、スムーズである。
アゲちゃんはわりとなんにでもくっついていけたが、セミちゃんはそうでもないようだ。
なにしろ、セミちゃんは地上の経験がほとんどないものな、、、。

目を頼りにしていないのか、目隠しされているかのように、足でペタペタ触って幹の形状を確かめている。
セミちゃんが登っているのは、枯れて切ってしまった高さ140センチほど金木犀の幹で、てっぺんは平らになっている。
妙だと思ったのか、足でペタペタとまたも確認作業に入っている。
うん、そこはさー、平らなんだよね、もうその先はないんだよー、と伝えたいのだが、目ではわからないのだろうか。
セミちゃんはてっぺんまでいくと、これも気に入らないのか、また下りていく。
さかさまになって、ごそごそしたのち、また正常の位置に戻ると、ここに決めたようだった。
アゲちゃんの時もそうだったが、てっぺんから5センチほど下の位置が好きなようだ。
羽根を乾かして、その先に歩いて行けるようにだろうか。
だとすると、距離を測っていたのか、頭が良い。

だが、ここで、人間のほうが暑さと蚊でタイムアップ。いったん家に避難した。
われわれがひっくり返ることになっても、自然に任せてたら死ぬことになる。

家で調べると、6時から7時の間に1時間かけて脱皮をし、さらに3時間かけて羽根を乾かすという。
むむ、今7時半か、いまが脱皮のチャンスか、あわてて、長袖を着て蚊よけスプレーをして、再度挑戦ダ。

以下、写真多めでコメントのみで書こうと思う。


19:25 急に暗くなってきた。

エビに似ている。そうだ、セミの抜け殻ってこんなんだったけね。
静かにしている。光を当ててもどうということもなさそうだ。
調べると、走光性という、光があるほうが脱皮するのによいらしい。
なんでだ? 電灯がある現代ならいいけど、大昔なら焚き火とかか? 
人間がいるほうがいいってこと? 
なぞは深まるが、まあよい、観察するのに光厳禁でなくて、助かった。

20:08 もぞもぞ動いている。皮を脱ぐ準備か。背に身との空隙が白く見える。

頭の部分が割れて、動かしている。背が盛り上がってきた。

20:13 背が完全に割れた。

なんか出てきた。

目が、目が出てきた!デカ目だ、かわいい!

ちいさいカエルみたい。

 

おっと、手を抜くのか? そっといけよ。

いった―――! だが、アゴが大変なことになっておるぞ。大丈夫か。
うさぎみたいになっておる。ちいさい羽根かわいいなあ。

20:34 完全にそっくり返っておる。すごい腹筋だ。
よく見ると、何本かうすい糸が体を支えている。
足の殻かとおもったが、あれは糸だ。
そりゃそうか、落っこちちゃったら羽化失敗だ。うまくできてるもんだ。
アゲちゃんは口から糸を1本出してくぐっていたが、セミちゃんはこういう感じか。
たまに休んでいるのもかわいい。そうだ、慎重に行けよ。

ついにお尻で支えるのみ。すごいことになってきた。
頭に血がのぼっておらぬか。
たまに動かなくなる時がある、
心配する。死んだのではないよな!

20:38 ついに起き上がった!
これからどうするつもりだよ、
そのままバック転かそれとも驚異の腹筋を見せるか、と
SASUKEの解説のようなツッコミをしていたが、
2回に分けて腹筋でヨッと起き上がった。

ついでに、お尻もつるりと殻から抜いた。
ああ、羽根が、羽根がーーー!
これは、あれだ、クリオネちゃんだ、陸の妖精だ。

白い体に、黒いつぶらな目、薄青のちいさい羽根。
想像上のアニメの動物のようだ。赤い斑点がほっぺたみたいだ。

自らの抜け殻に手をかけておる。おおおお。

前足はなにか濡れているようで全体にしっとりし、先端に水滴様のものがついていた。
だが、それは粘性のあるものだったようで、もう用なしと足でよけるとコロリと玉になって転がっていった。
まだ強度がない足でうまく立つ工夫だと思われる。
よくできてる。とここでも思った。

20:42 羽根がじょじょに大きくなっていく。
アゲちゃんは、羽根をたたんだ状態だったが、
セミちゃんは、どうやら、じょじょに風船に空気をいれるかのように羽根を大きくさせていっているように見えた。

くっ、かわいいぞ。

 

ターキッシュブルーの羽根が美しすぎる。フラジャイルな美しさ。
葉脈のような筋が見える。

 

21:47 脱皮して1時間、羽根がさらに大きく、茶色に変色してきた。
もう立派に蝉っぽいかたちになったな。
よくがんばった、えらかったな、セミちゃん。

これで、羽化観察大会も終わり。
アゲちゃんと違って、羽化直後に飛び立ちはしないそうだ。
朝、また様子をみることにするが、まあ、飛んで行ってもいいや、と思う。


朝、4時。すっかり成虫に。羽根はこんなに大きく、茶色に、美しくなっている。
昨日、もう立派に成虫だ、などと思ったが、これほど羽根が大きくなるとは!
昨夜は体のほうが大きかったのになあ。
蝉でも蝉でもセミちゃんはナニゼミなのかなと思っていたが、
こう見てみると、アブラゼミだったということが判明した。アブちゃんだ。

朝、7時。まだいた。なんと庭石の間にいた。
挟まってるのか、暑さを避けてるのかわからないが、ブブっとたまに動いていたので、元気そうだ。

昼、もういなかった。

アゲハチョウの幼虫を育ててみることにした(10 完)

アゲハチョウの幼虫を育ててみることにした(9)

続き。ここ数日忙しくて、とうに放していたのに、書いていなかった。

実は、羽化した当日、寝てると思ってそっとしておいたが、1時間ぐらいして、そっと覗いてみると、こんなふうに羽根を広げていた。

あれ、と思ってみていると、歩いて移動しはじめた。
よく見てみようと、部屋の電気をつけると、急にバタバタと羽ばたき、活動的に。
箱の縁辺りでバタバタしている。

あ、こりゃ、外に出たがっているな。

そう思い、もう夕方だったが、放そうと決意した。
今夜半より大雨との予報で、明朝やみしだい放そうと思ってたが、
朝から用事で出かけねばならぬので、背に腹はと思い放蝶は家人に頼もうと思っていた。
今のほうがいろいろ都合がよかった。

夏至から一夜あけた夕方18時半、まだ外は明るかった。
箱を裏庭に持ち出し、アゲちゃんが生まれ育った山椒の木のそばまで持って行った。

アクリルのフタごしに見えるアゲちゃん。バタバタとしている。

フタを開けると、もぞっと足で箱を抜け出て、白い空にむかって、東のほうへ飛び去った。

あっというまだった。

巣立ちってこんな感じかと感激した。

その姿は立派に蝶だった。

 

夏至の夜は、魔法が強くかかるという。
アゲちゃんが飛んで行ったのも、そんな雰囲気が残るゆうべだった。
しばらくすると夕闇がやってきて、雨が降り始めた。
夜半、雨は強くなり、どこか雨宿りしてくれていればいいのだがと思った。

家に戻り、薄く作ったはちみつ水を、アゲちゃんが結局飲まなかったので、私がおいしくチュッといただきました。

 


アゲハチョウは、普段はひらひらと速く、予測がつかない動きをするので写真どころか動画も撮れない。
腹が白いことや、羽根がおもてうらで模様がまったく違うなんてことも知らなかった。
飼育することで、アゲハチョウについてよく知ることができた。
常日頃、めんどうだ、めんどうだとばかり言っている私にしては、ちゃんと育て上げて、自分でもちょっとおどろいている。

といって、簡単だったかというと、そうでもなく、今回はビギナーズラックだったと思っている。
調べてみると、外で飼うと面倒はないけど、病気や天敵にやられることがあるから、
成功率を上げるには5齢まで待たず、早めに家にいれたほうがよさそうだった。
サナギになってどこかにいってしまうことだってあるから、家にひきとったタイミングもよかったし、蛹から寄生虫が出てくることがあると戦々恐々としていたが、上手に蛹になってくれた。
羽化の際も、窓がわりにつけたラップ部分に足を滑らせてどうなるかと思ったが、
段ボールの壁は意外に足が引っかかるようで、枝状の棒はなくても羽化するスペースが取れたので、それもうまくいったことだった。
何より、羽化の瞬間に立ちあえてうれしかった。

今後は飼う予定はないので、飼育箱はすでに解体し、次に見つけたらすみやかに近くの柚子の木に移そうと思っているが、その後も、柑橘系の街路樹を見かけるたびに、かじられた痕がないか、どこかにアゲちゃんがいないか、探してしまう。

はげちょろけの山椒も数日たつと新芽がそこここに出て、元気よくやっている。


と、じわじわとアゲちゃんのいない暮らしに慣れてきた1週間後、庭に出ていたら、
なんとアゲハチョウが、ゆっくり私の背のほうからゆらゆらと飛んできて、
もう少しで肩にとまりそうなほど接近していた。

アゲちゃんなの?

元気な姿を見せに来てくれたのかと、またまた感動する。

蝶の恩返し、あるかもしれぬ。
絶対に見ないでくださいといって、ほっそりした白い服の美女だか紳士だかがある夜、戸をたたいたら・・・!
ぜひ、背に乗せてひとっ飛びさせてもらいたい。


2024年
5月31日 3齢と思われる黒い幼虫を発見する
6月3日 5齢になる
6月6日 臭角を観察する
6月11日 家に引き取る ワンダリングを観察する 
6月12日 朝、前蛹になる 夕方、蛹になる
6月22日 16時半、羽化する 18時半、放蝶する