「the library 2016 」イベント「声の夜」に出演しました。
ギャラリーの30人の観客の前で語りをしました。
http://libraryblog.blog.fc2.com/blog-entry-160.html
以下に原稿を掲載します。
「線のおはなしについてのおはなし」
線のおはなしについてのおはなしをします。
昨年、群馬県で古い木造校舎の教室の壁に直接ドローイングを描く作品を作りました。
その場所でしか観られない、会期が終わればなくなってしまうこの作品を何とか別の形で残したい、
どうしようか考えたときに
ふと思い浮かんだのがソウル・スタインバーグの「The Line」という本です。
真ん中に一本の横線が引かれていて、あるページでは水平線になり、あるページではテーブルのへりの線になり、またページをめくると、洗濯物がゆれていて線が洗濯ヒモになっている、そういう本です。
この本は、もともとミラノトリエンナーレに出展された壁画が本になったものでした。
同じく線を描く私も、こんな楽しい本が作りたいなと思いました。
私の描く線の特徴は、「読む」というのがあります。線をたどっていきたくなる。
俵万智が『かーかん、はあい』という小さな息子に本を読んでやるエッセイ集があります。
そこで元永定正の『ころころころ』が紹介されています。
かいだんやでこぼこみち、あらしのなかを小さな玉がひたすらころころところがっていく話です。
俵さんは本屋さんにすすめられて買ったそうで、最初そんなにおもしろそうには思えなかった、
でも読んでやると「たっくん」はとても喜ぶ、「この子はね」と話し始めた。
そうか、子どもにとってころころの玉は、だれか「人」なんだと思ったと書いています。
そうです、本と言うのは、登場人物に自分を投影するというのが大きな特徴です。
それが本を読む喜びでしょう。
自己を投入するのは何も、人物や動物に限らないようです、玉でも線でもいいのでしょう。
『線のおはなし』も、線に自己を投影して読まれています。
線と一緒に走ったり、ぐるぐるしたり、ぐいーんと大きく動いたり、
そんなふうに線をたどりながら読む本、というのがこの作品の特徴です。
何かの形を表わしているわけではない
線そのものですから、読む人が想像して読む、という範囲が大きい。
背景も関係性もそこにはありません、ただ、運動のみがあります。
線がいろいろなリズム、形、スピードで進んでいくのは、まさに「線の冒険」と言ってもいいでしょう。
また、おはなしにはかならず時系列があります。
前にこうなっていて、今こうなって、次にこうなっていく、そういう一連の流れがあるのがおはなしです。
ですので、この作品で一本の線がずっとつながっているのはそういうわけです。
見開きのページでも一本の線で描かれていますが、前のページの終点と次のページの始点がつながって、、本全体としても一本の線でつながっています。
次はどうなるんだろう、とページをめくる喜び、それが本の喜びです。
一方、線のいいところは、今に集中してもいいという点です。
私は、線を描くときは、その描く瞬間に集中しています。それが即興ということですが、ですので読む人は、このページだけ、で楽しむ方法もあります。
今日の気分はこのページ、なんて楽しんでもいい、あるいは、「これはいい」とあちこち拾い読みしてもいいんです。
そんなわけで、この作品は「線のおはなし」なのです。
THE LIBRARY 2016 -Exhibition of the Book Art- 本の展覧会
会期:2016/8/10(水)~21(日) 11:30~19:00(8/21は10:00~15:00)会期中無休
場所:TOKI Art Space 東京都渋谷区神宮前3-42-5 サイオンビル1F(東京メトロ銀座線外苑前駅より5分)
TEL:03-3479-0332
企画:ART SPACE
http://www.ab.auone-net.jp/~library/
23年目を迎えるブックアート・手づくり本の展覧会です。
「本」のかたちをもとにした美術作品、絵やイラスト、写真、文章・ことばなどによる手づくりの本・160点が展示されます。
線のおはなし Story of Lines
ノート、インク / ink on notebook 185×185×10 mm 全28ページ / 2015
最初のページから最後のページまで
1本の銀色の線でつながっています。
文字はなく、線の形とリズムとスピードが、
読む人の想像力を刺激し、お話のように感じる絵本です。