出展作品解説 【グループ展 T-Art Gallery 東京・天王洲アイル 2016/12/18(日)~25(日)】

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「アートを借りる展。」vol.3 T-Art Gallery(東京・天王洲アイル)2016/12/18(日)~25(日)

鑑賞者が映り込む新作4点と、札幌の個展で展示した作品1点、合計5点を展示予定です。

鑑賞しようとすると鑑賞者自らが作品に映り込む。視ると同時に視られる体験を与える作品です。
自分の目では自分自身は見られないことの不思議さを思います。
あなたの目に映る私は、私が思う私とは違うかもしれません。


【作品解説】

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《線の向こうの私》 アクリル、マーカー 600×450×30mm 2016 撮影:小牧寿里

異なる速度と動きを持った線が、画面を越えて流れていきます。生き物の動きの軌跡のようにも見え、この世界を表すようです。観る人の姿が作品に映り込み、絵を鑑賞しているつもりがふと気づくと作品の中に自らの姿を発見します。線が作り出す重なったレイヤーの向こうに自分の姿が映るとき、日常にひそむ異界がほの見えるような気がします。

街を歩いていると、ショーウィンドウにふと自分の姿が映っているのに気づくことがあります。自分自身の表情、姿勢、恰好の意外さに驚きます。いつも鏡で自分を見るときは意識的ですから、映った瞬間にありたい姿に変えるわけで、こうした無防備な状態の自分を見ることは通常ありません。だけど、たいてい、そんなふうな自分自身をさらして世界に参加しているんだと思うと、ちょっとぞっとします。

一方、私たちは環境や関係性によっていくつもの自分を持って生きています。ありたい姿は常に同じではありません。本作品は、「視る私」と「視られている私」という異なる立場が交錯する体験を与えます。

 

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上 《わたしと目が合うとき》鏡、銀600×500×20mm 2016
下 《わたしと目が合うとき》アクリル、銀 337×250×5mm 2016

鏡と透明アクリルに作家の自画像を描いた作品で、鑑賞しようとすると鑑賞者が映り込みます。鏡は自分の顔を見るためのもの。それなのに、鏡の中に見慣れぬ他の誰かがいて、こちらを見ていたらどんな気持ちになるでしょう? 作品の中の他者と目を合わせるのと同時に、自分自身とも目を合わせる作品です。

銀を使って顔を制作していて、ふとウォーホルのことを思いました。金色も試しましたが、金色はどうも色があって銀のほうがいいなと思いました。あんなにたくさんの色で他人の顔の作品を使ったウォーホルが銀色が好きだったのは無彩色だからかもしれないと思います。
筆やペン先をメディウムに浸して描いて、その上から四角い銀箔をかぶせます。乾くまで待ってそれから少しずつ剥がすのですが、液体のメディウムが箔に押されて少し広がって線が均一にならない。インクのにじみみたいなものかもなぁ、とまたウォーホルを思い出しました。インクのしみの作品は私も好きな作品です。筆で箔を取り去るのですが、取ってみるまでできあがりがわからないのは版画にも似ています。
そのにじみと顔の輪郭とまゆげがないことで、作家の自画像ではあるけれど同時に特定の人物ではないあいまいさをもった顔になっています。タイトルの「わたしと目が合うとき」には、「わたし」とは作家本人であり、また映る鑑賞者自身でもある、という二重の意味が込められています。

考えてみれば、自分自身と目を合わせることは通常はありえないわけで、池澤夏樹『マシアス・ギリの失脚』で、パラオの王子リー・ボーが初めて鏡を見たとき驚き慌てその後何度も自分を映した、そのように鏡とは不思議な魅力があるのでしょう。アクリル、鏡に映る新作を制作したのは、通常なら見ることのないものを見せる不思議さによってでした。作品を鑑賞するとき、自分の目では見ることのない自分の姿を視、さらにそこに他者の目が介入してきます。奥に自分の顔、手前に他者の顔があり、目は深度を変えて視ようとします。私たちは視る存在でもありまた視られる存在でもあることをあらためて感じます。

目は、外界や他者ばかり、すなわち自分不在の世界を見ている、本当は自分も含んでいるのが世界なのに。あなたが見ているのはわたしを含む世界で、わたしが見ているのはあなたを含む世界、単純なことですが同じものを見ていないんだなと思います。最近、これまでの常識や良識では考えられないような、あるいは覆してしまうような大きな事件が簡単に次々と起きていて、みんなが同じ世界を見ようとはしていないことが浮き彫りになってきています。

一方、鏡で自分を見るとは他者の目になることではないかと思うのです。子どものころ、三面鏡に自分を映すといつも見慣れた私とはちょっと違う顔が見え、これが他人が見ている本当の私なんだ! と大きな驚きでした。
また、鏡に向かって独り言をよく言っていましたが、鏡の中の自分は他者でもあるようです、あのときこうでああだったとまるで事情を知らない人に言うように説明したり、物語を作って聞かせてやったりするのです。鏡の中の自分は、自分に大層似ている存在です。人はまず自分と似た外貌の人とは相互理解できそうだと判断するそうです。この人ならわかってもらえると思う相手は鏡の中の自分だと思って一生懸命話しをするのかもしれません。
ヴィト・アコンチの≪エアータイム≫が思い出されます。鏡に映った自分に向かってお前と言ったり俺と言ったりする(らしいです、孫引き、いつか実作を見てみたいものです)、スティーブ・ジョブズは毎朝鏡に向かって「お前は」と問いを発した。鏡で自分を見るとき、わたしはあなたになるのでしょうか。

 


会場であるT-Art Galleryは寺田倉庫のギャラリーです。この一帯は同社が再開発した地域で、関連の施設が密集しています。同じ建物の1階には建築模型の展示・保管をする「建築倉庫ミュージアム」(入場有料)があります。隣りには日本画の専門画材店があり、今回の作品で使用した銀箔はそこで買いました。隈研吾氏設計による⽵の簾をイメージしたうねる曲面が外からも見えます。

さらに海のほうに行くと、ミースのファンズワース邸を水に浮かべたようなバーがあります。走りはしませんが海上に係留されているフローティング施設で、船に乗っているような気分に。倉庫をリノベーションしたレストランには醸造所が併設されていて、大きなタンクが店内にあってオリジナルのクラフトビールが楽しめます。テラスからは恐竜のような荷揚げ装置や運河のある東京湾の風景がながめられます。

展示と合わせてお楽しみください。




「アートを借りる展。」vol.3

▼概要
「ART STAND」のウェブサイトに公開中・もしくは公開予定のレンタルできる作品を展示する企画展。展示点数は約70点。
(※入場無料)
▼参加作家
浅間 明日美、新井 碧、伊勢 琴子、川辺 史子、古賀 勇人、原口比奈子、 picnic、Yumi Kondo、ReikoKamiyama
▼会期
12月18日(日)~12月25日(日) 11:00~19:00
※24日(土)25日(日)のみ最終入場17:00まで
※19日(月)休館
▼場所
T-Art Gallery 寺田倉庫本社ビル2階 ギャラリースペース
〒140-0002 東京都品川区東品川2-6-10 寺田倉庫株式会社本社ビル2F
▼アクセス
東京モノレール天王洲アイル駅より徒歩3分
りんかい線天王洲アイル駅より徒歩2分
JR品川駅港南口1番乗り場より都営バス(大田市場行き、品98)「新東海橋」下車徒歩1分

▼主催
ART STAND 株式会社

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