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アゲハチョウの幼虫を育ててみることにした(8)

アゲちゃんがサナギになってから4日目、
順調に眠っている。
体長は2.5センチ。
5齢のときは4.5センチだったから、ほぼ半分になった。
色は若干白っぽく、カサカサ乾燥して枯れ葉をまとっているかのような外見だ。

庭にアゲハチョウが飛来する。
あれは、アゲちゃんのお母さんなのか、それとも、
いずれアゲちゃんのつがいの相手なのか、と考える。

数年前に読んだ『チョウはなぜ飛ぶか』( 日高敏隆)によると、
アゲハチョウは足の先に目の機能があって、
足でさわってつがいになる相手かどうか見るらしい。

産卵するのに、樹種をどうやって判断しているのだろうか。
色だとすると、緑の木はたくさんあるし、むずかしそうだ。
においだとすると、うちの今の山椒のようにはげちょろをもし選んだら、まずいことになるだろう。
うちの山椒は結局、葉の量はギリギリ間に合ったが、すごくちいさい木で、
近くにミカンの木はない。餓死の可能性もあった。結構賭けだったと思う。
それに、わたしがみつけたときは、一頭だったが、
卵は複数生みつけられたはずだから、
他のきょうだいたちは死んでしまったのだろうと思うと、
本当にアゲちゃんは、生き残るのが大変なんだなと思う。

ところで、サナギの形で眠っているアゲちゃんを見て、
記憶はどうなっているのだろうと思う。
羽化すれば、芋虫だったときとは身体の形も食べ物もまったく変わる。
もう山椒は食べないし、口吻で液体を吸う。
自分の生まれ育った山椒の木の場所は覚えているのだろうか。
それとも自力で新たな山椒をさがしに、旅に出るのだろうか。

そうだ、羊水に浮かんでいたときの自分だ。
あのころ、食べ物も呼吸のしかたも今とはまったく違っていた。

アゲちゃんは棒でつついても、いやがるでもなく逃げるでもなく、
何を考えているのかわからない様子で、
哺乳類を飼うのとは根本的に違うのだった。
だが、そんなことを考えると、虫とも多少は共感ができる気がする。

アゲハチョウの幼虫を育ててみることにした(7)

夕方、アゲちゃんが、糸をかけていた!

朝には、まだ芋虫だったのに、出かけて帰ってきたら、急にサナギの形になっていた。

ちいさく縮んで、前屈姿勢になり、糸を口から出して、輪にして体を支え、それが前蛹といわれる形で、
その後、脱皮して蛹になる、と成長過程は把握していた。

だが、こんなに早く、前蛹からサナギになるとは思っていなかった。

ふと見ると、床になにやらごみのようなものが落ちている。これが脱皮した皮か?
ちいさくなって、1日後には、もう脱皮して蛹になるのか。
2日ぐらいは、前蛹でいると思っていた。

それにしても、サナちゃんは、ずいぶんちいさい。

ちょっと小さすぎるんじゃないか。
やたら早くさなぎになってるから、成長が不十分なんじゃないか。
いやいや、こんなものなんだろうか。
やはり写真はサイズを誤解させるな、と再び思う。

最初はサナギは、芋虫の色、鮮やかでしっとりした緑色だったが、数時間たつと、
からからに乾いて、色が変わっていった。

こんな細い糸でよくもまあ体を支えるもんだと思う。
飼育箱のフタを開けるときも、振動を与えぬよう、そおっとする。
体長を測りたいが、万が一にも落ちてはならぬと思い、まだできずにいる。
いやいや、自然状態のほうが、風もあるし雨もあるし、多少の振動ぐらいへっちゃらなんだろうけども、
あまりにフラジャイルな様子に、こちらも及び腰である。

糸をかけるところも見たかったなあ。口から糸を出すのだそうだ。そのあとはくぐるのだろうか。
脱皮するときも、糸のところでひっかからないように皮をうまいぐあいに脱いでいくという。見たかったなあ。
それでも、サナギになるところをつぶさに観察できて、楽しい。
やはり芋虫の状態で引き取ってよかった。

 

前屈姿勢をするアゲちゃん。頭と同じぐらい、ほぼ2頭身になるほど、身体を縮ませている。

目を離したちょっとの間に、サナギになっていた。

翌朝からはいつも庭にアゲちゃんを見にいっていたルーティンがなくなって、ちょっと寂しい一方、いつでもいなくなってる覚悟をせずにすむので、安心もしている。

10日程度、このままでいるらしい。
あとは、羽化を楽しみに待つのみだ。

アゲハチョウの幼虫を育ててみることにした(6)

そろそろ蛹になるのだろうか、と様子を見に行く。

いない。
いなくなった。
いない。
どこにもいない。

蛹になるためには、ワンダリングという行動をするという。
柚子の葉っぱのうらも、近くのヒサカキの幹も、ミョウガの枝も、しゃがんで下から舐めるように探す。
いない。
さなぎになる前は液状のフンをするという。そんなのがないか地面をみるが、ない。
山椒の葉の上に、固形のフンがあるだけ。
フンの上方の本体があると思うも、上にはなにもない。
これまで地面に落ちていたから、
上に空のみがあるのがまた、鳥にやられた証拠にも思える。
さなぎになるため歩き回ってどこかにいってしまったのかもしれない、と強く自分に言い聞かせたが、
本当は鳥にやられたと認めたくないのだ。
とにかく、喪失感でいっぱいだ。
せっかく、飼育箱も用意したのに、無駄になってしまった。
カラの飼育箱を見るとは、なんてつらいことだろう。
ぐずぐすしてないで、早く引き取ればよかったのに。
お昼を食べてから、なんてのんびりせず、先に見ればよかったのに。

最近、スズメが2羽うちの庭によく来ている。さっきもバタバタ飛んで行った。あいつらか。

そう思って、もう一度見る。
あっ、いた! 思わず声が出た。

いたよ、いたよ。

隣りのミョウガの茎にぽちょんとつかまって、こっちを見ていた。
おい。こんなところにいたのかよ。
動いちゃダメっていったでしょ。迷子を怒る母親のようなことを言う。

もうね、こんな思いはしたくないよ。いますぐ、家に引き取る!
だいたい、こんな目立つところにいて、あぶないったら。

それで、急遽、引き取ることになった。

ミョウガの枝ごと、剪定ばさみでバッサリ切って、家に持ち帰る。
ミョウガの枝につかまっていたということは、もう食べ物は食べないのだろうと思ったが、
もしごはんが食べたくなるかもしれないからと、柚子と山椒の枝とともに小瓶に水をいれて、箱の真ん中に置いた。
蛹がつかまれるように割り箸を立ててみる。

アゲちゃんは、割り箸を見つけるも、どんどん登ってその先になにかないかと、
頭を振り乱している。荒ぶるオッコトヌシそのもの。
割り箸の先の、箱のてっぺんまでのぼっていって、縁を歩いていく。
速い。
君がこんなに動くのを初めてみたよ。

あわててフタをすると、少しのすきまから頭を出して、脱走しそうになる。
このまま、蛹になるのにちょうどいい場所を探しつづけるのだろうか。
割り箸は何本か垂直に立ててみたが、斜めのも作ってみる。
マスキングテープで固定する。

急に環境が変わったのが嫌なのか、ウロウロしている。
山椒の葉っぱを近くに置いてみるも、まったく眼中にない。
それどころじゃないんで、という調子で、葉っぱを踏み越えて歩いていく。
荒ぶっているアゲちゃんは、すごく大きく、すごく伸びて、
頭を振り回して、近くに何か棒状のものがないか探している。

背中の中心に、ホログラムのように、線が浮かび上がっては消える。
心臓のように、ドクドクしている。

とにかく、すごい。

 

フタを開けていると、フタの縁を歩き回って外に出るだけでキリがないので、
フタをしてしばらく様子を見る。
やっと30分すると、徘徊をやめ、壁にぴったりとくっつき、
あっという間に、ちいさく、ちいさく、ちぢんでいった。

すごく、すごく、かわいい。

 

飼育箱の窓からのぞくと、飼育箱の天井から3センチほど下の壁にちいさく、つかまっている。
あんなに大きかったのに、蛇腹を極小に縮めて、半分以下の長さになった。
あの長い身はどこにいってしまったんだろう。
あんなに動き回っていたのがうそのような静けさ。
ここが気に入ったのだろうか。
棒じゃなくてただの壁なんだが、大丈夫だろうか。本人がいいなら、いいんだが。
飼育箱の窓からのぞくと、飼育箱の天井から5センチほど下の壁に、つかまっている。
蛹になるときはあまりさわらないほうがいいそうなので、そっとしておく。
蛹になる前には前屈姿勢をとるそうだが、アゲちゃんは今のところ、ぺったり壁に沿っているのみ。

このまま10日ほど、飲まず食わずでここにいることになる。
だから、あんなに食べまくったのか。冬眠前の熊と同じだ。
おかげでうちの山椒は丸裸になった。
昨日も、餃子の薬味として食べたかったが、アゲちゃん優先、人間後回しで我慢した甲斐があった。ぎりぎり、間に合った。
山椒には申し訳なかったが、まだ新芽も出ているので、なんとか復活するだろうと楽観している。

とにかく、うまく家に引き取れて、ひとまずほっとする。
このまま蛹になってくれればいい。寄生バチも入り込むスキはない。
だから、いつのまにか、いつ家に引き取る問題も解決した。
このまま蛹になるなら、フンを洗い流すとか、フレッシュな枝を切らすな、とかいう面倒もなくてよくなった。いちばんよい時期に引き取れたと思う。
どうも私はそんなことが多い。先々のことを考えすぎて不安を増幅させては悩んでばかりいる。
こんなふうに簡単に解決するはずなのに。

アゲハチョウの幼虫を育ててみることにした(5)

5齢になって7日目。そろそろ蛹になるはずだが、まだ気配はない。
ただただ、たくさん食べている。
これまで食事するところは見なかったのに、ここ数日、私が見ているときにも食べている。
はじから一方向に向かって食べていく、スイカ食い。芝刈り機方式でもある。
何かに似ていると思ったら、そうだ、アリクイだ。
蛇腹状のからだをくねらせて、龍にも似ている。これにひげを生やしたら、と夢想する。

カシカシ食べて、そのあと満腹を味わうかのように、頭をもたげてゆっくり空を見上げている。
動かないので、山椒のトゲがのどにひっかかったのかと、またまた心配になるが、そういうものらしい。

ついに素手でも触ってみた。
触った感じは、さらさらしていて、どうということもない。
臭角を出したが、またもや3回目には出さない。
1日あたりの角出しの回数が決まっているのかと疑う。
家人は、あまりいじめなさんなという。
いじめてはいない、観察であると抗弁しておいたが、
本当の敵襲の時のために温存してほしいので、これ以上は触らないことにする。
鼻をくんくんさせてみたが、とくににおいは感じられなかった。
残念である。

体長は4センチになった。
節も実は7、8個になっていることがわかる。
模様だけでみると3節だが、
遠くの葉っぱを食べるために背伸びしているところを見るに、
7,8個に分かれていた。ずいぶん、大きくなったなあ。
あたまでっかちだったのも、身体の大きさが頭に近づいて、
今では芋虫っぽく、全体がほぼ同じぐらいの大きさになった。

山椒はずいぶんなくなったので、万が一のことを考え、
夜のうちに、柚子の枝を3本、わかりやすいようなところに立ててみた。
しかし、翌朝見てみると、依然山椒の枝のところにいる。
柚子、気に入らなかったのか。
柚子の葉が多少かじられているようにも見えるが、最初からそういう枝だったかもしれないので
確かなことは不明である。夜だったから、どんな枝だったかよく見なかった。
山椒が間に合えばいいのだが。

蛹になる前は、気に入った場所をさがすために、ずいぶん歩き回るそうだ。
いつ、家に引き取ってもいいように、観察のための箱を作った。
役に立ちますように、と思う。

目下の議題は、
1)蛹になる前に家に引き取るか、
2)蛹になって数日かたまってから家に引き取るか
である。
1は、どこかにいって見つからない問題の回避 だが、うまく蛹化するのか
2は、寄生バチに寄生されたらどうしよう
なやましい。いまのところ、そっとしておくことにする。

アゲハチョウの幼虫を育ててみることにした(4)

アゲハチョウの幼虫を育ててみることにした(3)

続き。

※途中に虫の写真が出てきます。

棒でつついたら、ぴょっと黄色いツノを出した。
敵に襲われると出す臭角というものだそうだ。
アゲちゃん、怒ってるっぽい。
かわいい。

 

ぴょっ。

しばらくすると、すっとしまいこむ。

まだ、こわいので、素手でさわる勇気はなかった。
そこらにある棒で頭を触ると、
かぶっているマスクをちょっと上に脱いで、ぴょっとかたつむりの角みたいに2本出す。
隠していた素顔を見せてきた。
脱ぎかけのガチャピンは、ケロロ軍曹にも似ている。

マスクの下に、ほんとうの目がある。
プンプンおこって下の顔がふくれっ面になってるアゲちゃん。
マスクの表情も、心なしか、険のある顔に見える。
いつもはとっつあんぼうやみたいな童顔のくせに
怒ると、急に年をとったなまずみたいな顔になる。
こいつめ。

 

すぐにこれはなんでもないとわかったようで、
何回かやると、ツノを出さなくなった。
頭がいい。

最初頭をツンツンしてみると、ツノを出した。
次に、横っ腹をツンツンしてみる。またツノを出す。
もう一度、横っ腹をつつく。
もう怖くないとさとったのか、ツノを出さなくなった。
目の前に(黒いところじゃなくて、本当の目)、棒をゆらゆら見せつけてみたが、
反応はなし。慣れたのかもしれないが。
横っ腹を強めに押すも、反応はなし。
頭をぎゅっとしても、反応はなし。
息を強く吹きかけてみても、反応はなし。

なんだよ。やめろよ。もうこわくねーよ。
そんな感じもかわいい。

もう角を出さなくなったので、ツノと同時に臭い匂いを出すらしいのに、かげなかった。

わたしも、ツンツンやりすぎて、
アゲちゃんが嫌気がさして、引っ越しちゃったらどうしようと思ったので、
あまりしつこくはできなかった。

また明日にでも、ちがう手口でやってみよう。
頑張って、素手で触ってみるか。

ところで、脱皮したてと思われるときと比べて、
ずいぶん、緑の色が青味がかってきて、山椒の葉の色に近づいてきた。
肌もだんだんベルベットのような感じに。
食べる量も多い。
ただ、食べているときを目撃したことはない。
いつでも、枝の上に乗っているだけで、もぐもぐしているところは見ていない。
だから、あまり活動的には思えない。

こっちの枝を最初に食べきり、つぎに別の枝に移って、という感じで
あっちこっち食べ散らかすというのよりも、ある意味、食事のマナーが礼儀正しい。
フランス流である。
観察するほうとしては、うむうむ、一日でこれだけ食べおったな、とわかりやすい。

当初は、山椒を守るために、室内で柚子の葉で育てようと思っていたが、
蛹になる前の重要なときに
食べなれない食べ物をやって、ストレスを与えてはいけないんじゃないかなと思った。
なにこれ、うまい~~となってくれればいいけど、
こんなの食べられないわ、と痩せちゃったりしたらかわいそうだ。
このまま、うちの山椒で育てることにした。
山椒も、ちいさいとはいえ、まだ葉っぱはある。
もう数日だ、まあ大丈夫だろう。

最初はラーメン丼のようだと思った頭の模様、
よく見ると、馬蹄の形である。
ラッキーアイテムを頭に巻くとはおしゃれさんである。
クレオパトラのような髪飾りにも、
つながったまゆげのようにもみえる。

アゲハチョウの幼虫を育ててみることにした(3)

続き。https://hinakoharaguchi.com/archives/8940

朝に夕にアゲちゃんの様子を見に行く。
調べると、やはり家で飼うほうが絶対によいとあるから、今日にもいなくなっているのではと思う。

今朝、家人が、自分も見たいどこにいるのかというので、
そのへんにいるんだが慣れてないから見つけられないんだな、と腰を上げる。
ところが、あれ、見つからない。
いつもいるあたりの葉をめくってみる。いない。いよいよか、と思う。
家人が見ぬままいなくなったかと思ったつぎの瞬間、
うむ?! 
これは、5齢だ! でた。緑の葉っぱの上に、見知らぬ緑の虫が乗っている!

わっわっどうしよう!

逃げるわけもないのに、焦る。とにかく写真だ、スマホを取りに戻る。

写真で見たとおりだ、とも思うし、意外に小さい、とも思う。
そうだ、もっと鮮やかな緑色だと思っていたのに、薄くグレーが勝ったモスグリーンで、
虫の緑、モスグリーンとは言いえて妙だと感心する。
さらにいうと肌はツヤツヤせずに乾いたような質感である。
頭でっかちである。

気持ちが落ちてついてきて、じっくり見るに、
やはり写真はサイズについては誤解を与えやすいとあらためて思う。
先入観が入りやすいのか、勝手にこんなふうだろうと思って理解している。
リアル体験のおもしろさはこうした意外な発見にあると思う。
滔々と言うことではないが、目の当たりにすると、実感がある。
色とサイズについて、脱皮したてだからか、今後もこんなものなのか、さらに観察することにする。

昨日は、黒い頭をのぞかせた写真が撮れたので、オコジョみたいだ、ヘビみたいだ、と書こうと思っていたのに、一夜で5齢になった。すっかりキャタピラもできている。

そういえば、キャタピラは工事車両や軍用車の用語だと思っていたが、もともとが、虫という意味の英語だったと知る。
ただ、アゲちゃんを観察するに、あのように、グルグルと回ることで前へ進むキャタピラとは、構造的には似ていないと思う。
アゲちゃんは前後に収縮をして前進するもののように見える。
それとも、あのように、転がり続ける虫もいるのだろうか。

転がり続けるで「A rolling stone gathers no moss.」を思い出した。
そこではたと気づいた。モスってこっちか?
さっき、まさにモスグリーンだと思ったのは、mothのほうだと思ったのだった。
だが、モスグリーンのモスは苔のmossだった。あ、苔の緑か。
虫のモスは峨だっけねとか思いながら、モスラのことなど考えたりしている。

そろそろ家に引き取る準備をせねば。
発見して7日後に5齢ということは、逆算すると3齢程度で発見したことになる。
5齢で数日すごし、蛹になる。
まだチビ助とのんびり構えていたので、急に忙しくなってきた。
大きいペットボトルは飲む予定がないので、安い虫かごを買ってみるか。

 


下、虫の写真注意。

 

 

 

 

 

 

正面から見ると、小動物のような愛くるしさ。
ヘビのようでもある。よくみると獰猛そうな面構えをしている。

 

ついに5齢。あたまがでかい。

わりと小さい。

アゲハチョウの幼虫を育ててみることにした(2)

続き。https://hinakoharaguchi.com/archives/8927

そんなわけで、ひねりつぶさずに、戻すことにした。
もとの山椒の枝の上に切った小枝ごと乗せておいた。
自分でフレッシュな葉のほうに移るだろう、野生のものだ、それぐらいやるだろうと。

ところが、次の日、どうしているか裏庭に見に行くと、いない。
小枝もない。山椒の葉のうらおもてをよく見てみたが、枝もあいつもいない。
動転して、開かないドアを無為に何度もガチャガチャやるように、
おい、お前、どこにいった、と
山椒の木をぶるぶる揺らせば、昨夜の雨粒が落ちてくるのみ。
おーいおーいと呼ぼうにも、名前もなかったから、ただただ右往左往する。

そういえば、と思う。
あの形状は、鳥のフンに擬態しているのだそうだ。
鳥が天敵である。
うちは鳥はさほどこないが、来ないこともない。
見れば、株元に、しおれた小枝が落ちていて、
やはりしおれた葉っぱにダンゴムシがたかっていた。
ああ、やられたんだ、とわたしは意気消沈した。
虫はやられ、小枝だけが残り、これも食物連鎖の輪に入っていく。
飼いたいなら、なぜネットをかけておかなかったか。
やはりここでも露呈した自分の見通しの甘さをはげしく後悔した。

昨日はさほどでもなかったのに、かわいかったのになあという気になってくる。
最後によく見るかと、かがんでみると、
いた。
枝の陰に体を折るようにちぢこまっていた。
おうおう、無事だったか。
お前はよわっちそうだが、足腰が強いのだな。あれほどの強風にも耐えたのか、えらいぞ。
昨夜のは台風だが、さっきのはわたしの起こした風だ。許せよ。

しかし。どうする。
ネットか。
わざわざ買うのは面倒で、代用できるものも思いうかばない。
さっきまで、ネットをかぶせるべきだった、家で引き取るべきだったと
後悔やまずだったのに、
いったん、生きているのがわかるや、
家で飼うには、専用箱なりペットボトルなりを用意し、密閉せぬよう逃げぬよう細工をし、
フレッシュな葉をつけた小枝を水を入れた小瓶に差し入れ、切らさぬようにし、フンを片して、
やってられない。
ここならば、新鮮な葉と空気は彼にとっては山ほどあって、フンは落とし放題、そのうち肥料になる。
よし、やはりここで飼おう。
ただ、途中で鳥にやられたとしても、それはそれとしてあきらめる、
ここまで覚悟を決めた。

ただ、気になったので、天敵について調べてみた。
ううむ、天敵が多いな、お前は。
鳥はもちろん、アリ、クモ、ハチ、カマキリ、トンボ、トカゲ。
さらには蛹に寄生するやつもいる。
そうだ、山椒の近くに南天があって、カマキリの卵が越冬していた。
最近、そこらにちいさいのを何匹か見た。あれもいずれアゲハちゃんの天敵か。

ついでにカマキリについても調べる。
去年、家の白い壁をボルタリングのように落ちては登り、落ちては登っていく
ストイックな様子にほれぼれしたのだが、あれはいったい何を食べておるのか。
いも虫は葉っぱをたべ、アリは果物の腐ったのを運び、
たいていの虫はつねに食べ物を食べるか探すかしているというのに、
彼は、一人孤独に、ひたすら垂直の壁を登っていた。

なんと、カマキリは肉食だという。あろうことか相当大きなやつも食べるらしい。
チョウ、セミ、バッタ、トンボ、スズメバチ、カエル、小鳥。トカゲ、ヘビと書いてある資料もある。
あんなほっそりしているのに大食漢である。
あの武器を振るうためには腕の筋肉も相当であろう。
それで、日々トレーニングしているのか。立派だ。
それともただの好奇心の塊なんだろうか。それで、大物にも果敢にいくのだろうか。
いずれにせよ、さすがにうまれたばかりならアブラムシを捕るようだから、
山椒のまわりをうろうろしてもかまわぬ、とこれも放っておいた。

それで毎日様子を見に行く。名前は日によってアゲちゃんとかアゲハちゃんとか呼ぶ。
最初はちいさくて、たいして動きもしなかったが、
ここ数日、食い荒らされた葉っぱが目立ってきた。
一枝食いつくして、違う枝に移っておるな。
よしよし、食え食え。敵に気をつけてな。

キッチンのシンクにいたころは、前だか後ろだかわからない様子だったが、
今や螺髪のようなのが頭だとわかる。
黒いボツボツのあいだから、目が光っている気がする。
目が合っても気持ち悪いので、ちょっとだけ見ることにする。

天敵が多いわりに、葉っぱの上に堂々と伸びていることが多い。
観察するには都合がいいが、もっと葉の裏に隠れるとかしなくていいのかと思う。
まだ、うれしいことに元気にしておる。

いつまでうちにいるか不明だが、いるまで書くことに決めた。
この間、戦前の高等教育を受けた人の文章を読んでいたせいで、
すっかり文体が爺さんになってしまった。

 


※下に虫の写真注意。

 

 

 

 

 

 

 

アゲハチョウの幼虫を育ててみることにした(1)

裏庭の半日陰に昨年末植え付けた山椒の葉の上に、黒い虫がついていた。
虫だか本当はわからない、くろい、ちいさい、動物のフンのようなもの。
動かないので、虫ではなく病気かもしれない。
とにかく枝ごととって、
お昼を食べた後にでもしらべてみようと、
キッチンのシンクの中においておいた。
これはなんなのか。

1)そもそも山椒に虫はつくのか
わたしは、山椒は虫がつかないものと思っていた。
山に自生する匂いのきついハーブだから、虫には強いはずと。
ところが、これについて調べていくと、驚くべきかな、二つに意見が割れていた。
虫はつく、という人と、虫はつかない、という人。
ネットっていったいなんなんだろうね。

ただ、そもそも、はどっちでもいい。
現実にうちにいるこいつはなんなのか知ればよい。

2)虫だと仮定してなんの虫か。山椒に害をなすものか、駆除すべきならその方法は。
ふむ、アゲハチョウだという人あり。
しかし、わたしのこれまでの知識では、
アゲハチョウの幼虫はきみどり色の割としっかりめの皮のキャタピラ型で、
ガチャピンに似た活動的なやつだったはず。
うちのは、くろくて、ちいさくて、やわらかそうで、ほとんど動かない。
なら、ほかの虫だろうか、調べていくうちに、非常に有益な情報を得た。
それによると、どうやらアゲハチョウの幼虫の初期段階だということがわかった。
いわば第5形態まであって、1から4までがくろくて、5齢でガチャピンになるのだそうだ。
なるほど、じゃあ、こいつは、アゲハチョウか、かなり葉を食ってしまうらしい。
よし、駆除決定。

と、このへんまでオートマティックに考えた。
というのも、この山椒、年末に半額で手に入れほくほくと持ち帰ったが、
植えて間もなく枯れてしまったのだ。

山椒は、山に自生するほどで強いのだが、唯一、植え替えをきらうときいたことがある。
事実、10年前に失敗している。
鉢から植替えたのがまずかったか。
だが、冬には落葉するというから、ただの冬へのそなえかもしれん。
葉が黄色くなって、どんどん落ちていく。
これがどちらか判断することはできなかった。
年始に少々おせち料理に使っただけで、あとは枯れ木になった姿をしょんぼり見やるだけだった。
半額に目がくらんだわたしは恒例の銭失いをしただけなのだろうか。

ところが、この春、新芽を出したのだ。
ああ、あれはただの落葉だったか!
なんだ、そうか、そうか。
これは大事に、大事に育てようぞ。
小さい葉っぱをつけて、買った時よりも一回りも大きく育っているのを
目を細めて初孫を愛でる祖父のような気持ちで見る。
ようやくわたしの膝ほどの高さにまでなった。

そんなふうに育てていた山椒なので、
丸裸にしてしまうというアゲハチョウの幼虫は即座に駆除、と決定したのだが、
これを家で育てている人がいた。
当初は、園芸関係のサイトを見ていたので、被害だとか対処方法とかばかりが目についたが、
虫関係ではわりと人気のようだ。
子どもの要求でしがなく育ててみると案外かわいいという意見に、
なるほどと思った。
これからガチャピンになって、さなぎになって、変態していくのはおもしろそうだ。
なろうことなら、蝶になる瞬間を見たいものだ。
それに、昨夏、芋虫が葉っぱを人がスイカを食うように端から食べるさまを見て、
いっそすがすがしい気持ちにさえなった。
あんなちいさいものが、口をパペット人形のごとく開けて、自分の体の何倍もの葉を食べ、
くねくねとおしりからフンをひりだすのだ。

とはいえ、小さな山椒だ。
葉が食い尽くされ、光合成できなくなれば死んでしまうだろう。
アゲハの幼虫が一生のうちで食べる量は、25cm×20cm。つまりA4一枚程度か。
今の山椒のすべてに相当する。
困った。やはり駆除するか。

ところで、アゲハの幼虫はミカンによくつく、それはわたしも知っていた。
だが、山椒はミカンの仲間だというのには驚いた。
ミカン科サンショウ属。
それにしては、葉の形がずいぶんちがうようだが。
ただ、葉を食べたときの爽快感は、ちょっとミカンにも似ている、といえなくも、ない、か?
ミカンというのでひらめいた。
そばの川の土手に柚子の木が自生している。
ガチャピンになったら、あれをやればいいのではないか。
飼うには生の葉っぱを切らさないこと、と書いてある。
フンも洗い流せという。
めんどうだ。
それまでは外で飼おう。
5齢で、一生のうちの9割以上を食べる。
ならば、4齢まではうちの山椒を食えばよい。
それまで外で飼い、5齢になったら、家へ引き取り、蛹にして、羽化するのを見ようではないか。


※虫の写真注意。

 

 

 

 

 

 

 

 

写真中央の葉の上にいる、黒と白の模様がアゲハの幼虫。
自分で撮ってさえ、よくわからないぐらい、虫とも思えない様子だった。