子規の旅その後(1)机の謎 子規庵探訪根岸の旅

今年1月に松山を旅し、正岡子規の生家「子規堂」と松山市立子規記念博物館に行った。

子規と漱石 愚陀仏庵のふたりー新春道後温泉旅行(9)

松山市立子規記念博物館の入り口付近に、机と糸瓜棚が展示されて、
子規の家の一部を模した記念写真スポットとなっていた。

写真中央、人物の左手の前あたり、短冊の左隣りにご注目いただきたい。

四角い机に、約15センチ四方、切り取られたように穴が開いていて、机の脚が見えている。

この机に開いた謎の穴の秘密が、これから明らかになる。

それはそれとして、
机のサイズや仕様が実際のものとは若干異なる、
本物は東京根岸の旧宅に所蔵されている、と注意書きがある。

それで、子規が晩年から最期まで住んだ家が根岸にあることを知り、
いずれ訪ねようと思っていた。

「子規庵」として公開されているという。

子規庵
https://shikian.or.jp/

 


「子規庵」を目指して、鶯谷駅から歩いていく。

子規の部屋 書斎であり病室でもあった

 


机の前の窓の外の糸瓜棚

私も子規と同じように、机に座って、庭を眺めてみる。

さっきまで雨が降っていて、しっとりと濡れた庭はとても美しかった。

とのんびりと部屋全体を見回していたそのとき、手元の机の穴に気づいたのだ。

むむ、これは、先日、松山で見つけた謎の穴ではないか。

子規は病のため左膝が曲がったまま伸びなくなっていて、立て膝で座らざるを得なかった、
それでも、書き物がしやすいように特注で作らせたのが、この机のくぼみである、
との解説があった。

膝をちょうど一つ入れられるように、そして使った後は、蓋ができるようになっていた。

ハハァ、子規記念博物館の机のくぼみは、これだったのか!

 


机の上に、子規の日記『仰臥漫録』(復元)が置いてある。 二分冊なので、開いてあるのが(一)。

1901(明治34)年9月、10月に、死の直前まで子規が毎日書いていた日記で、
その日食べたものや庭の植物、誰が訪ねてきたか、自分の病状について、絵と文字で書かれている。


展示で面白かったのが、日記を元に実際に庵のスタッフが再現して作ってみたという『食べもの帖』である。

『坂の上の雲』でも、子規はくいしんぼうだった、と書いてある。

その通りで、この資料のページをめくってみて、驚いた。

夕食に鰻7串!

お客さんが来てみんなで食べたのだろうか。

制作したボランティアスタッフにそう尋ねると、いえいえ、一人で食べたようです、とのこと。

ひえぇええ!

それはもはや、くいしんぼうというより、大食漢では?

それが、この二つ。
復元された『仰臥漫録』のページと、同じ日の「食べもの帖」のページ。

後ろから2行目、鰻ノ蒲焼七串とある。

夕食の写真に、蒲焼がちゃんと7串、それぞれ皿に載っている。

こりゃ、おもしろいねえ。

朝からおかゆを3杯も食べて、牛乳に紅茶やココアなんかいれて飲んでる。

りんご1個ってまるごとなの?!

シソとかアン入りとか、食べたパンの絵も描いてあるよ。

私もくいしんぼうだから、『仰臥漫録』のページをめくるのが楽しくなってきた。

 


子規は確かに起き上がれないほどの重病だった。
だけど、本性としてユーモアがあって、
誰よりも元気にこの家で過ごしていたのがよくわかる。

子規には悲壮感がない。そこも私が子規に魅かれる所以である。

『坂の上の雲』はもう何度も読んだが、

最初は真之に夢中になる、他を寄せ付けないまじめさと突き抜けたクレバーさに。

次に好古を好きになる、その数奇な運命とそれを受け入れて生きるしなやかな生き方に。

最後は子規に魅かれる、愛すべき無邪気さ、天真爛漫さに。

 


別の日、都美館に用があった帰り、
上野公園をぶらぶら歩いていたら、「正岡子規記念球場」を発見した。
子規は野球と深い縁がある。

東京文化会館の裏手、子規庵とは徒歩で20分程度のところ。

え、こんなとこに子規の名が! 普通にみんなが野球をしていた。

正岡子規記念球場
https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/jimusho/toubuk/ueno/sisetu

子規と野球の縁についてはこちら。
「無名時代の正岡子規が残した果てなき野球愛「啼血始末」/祝! 野球伝来150年〈4〉」(日刊スポーツプレミアム)
https://www.nikkansports.com/premium/baseball/news/202209200001231.html

 


この日は、子規庵の目の前の「台東区立書道博物館」で何か催しがあったようで、
それの帰りらしき人品卑しからぬ関係者らが、
子規庵の隣り豆富の老舗「笹乃雪」に集まっていた。

私もとちょっとのぞいたが、コース料理のみということだった。

おいしそうだなあ、いつか行きたい。

店の玄関の外に子規の句碑があり、

『仰臥漫録』にも登場する。
左ページ2行目、手土産に持って行ったらしい、「オ土産ハ例ノ笹ノ雪」。

笹乃雪
http://www.sasanoyuki.com/

 


その後、入谷の小野照崎神社に向かった。

渥美清が好きなたばこをやめる代わりに仕事をとお参りしたら、
寅さんの主演の仕事が決まったと言われのある芸事の神様だという。

ぜひともあやかりたいが、私が代わりに止めるのは、うむむ、
酒タバコ賭け事はもともとやらないし、甘いものはやめられないし、困った。

小野照崎神社
https://onoteru.or.jp

子規の旅その後(2)子規の庭 うちの庭