「パパのコーヒーの木に実が生ったよ!」と弾んだ声で母から電話があった。
珈琲が好きだった父を偲び、亡くなった直後にコーヒーの小さな苗を買った。
珈琲の苗育て来ぬ星型の花去年ひとたびは咲きたりき (嘉代子 『飛鳥』より)
その後日談である。
その木がいつのまにか大きく育ち、ついに実を結んだ。
植物園では見かけるけど、温室がないのにコーヒーって育つんだと驚いた。
苗を買った時、いつか実が生ったら、コーヒーを淹れて飲めるのかな、などと
話してたのは夢物語だったが、まさかホントの話になりそうだ。
どうやら、昨今の温暖化により、日本の家庭でも可能になってきつつあるという。
実っていくつ生っているの?
1、2、3・・・5個。5個ある!
よし、大事に育てて、焙煎できるものならやってみようよ。
どうすればいいのか、最終的に口に入るのでちょっと怖いと思い、本も調べたが、
わかりやすかったプロのサイトを参考にすることにした。
前半「コーヒーの木から実を収穫するまで」工程と
後半「収穫したあとの生豆を家で焙煎する」工程とを、
それぞれ、以下のサイトを参考にした。
ここにお礼を申し上げます。
「コーヒーチェリー収穫と精製(ウォッシュト)作業&カスカラ作成」(©2022-2025 あしたも焙煎 roasted by ハッピーサト.)
https://sato-coffee.com/coffeeprocessingcascara/
「【お家でお手軽】フライパンで焙煎する方法と焙煎のコツを解説」(© 2021 CoffeeSwamp/AIKACOFFEE)
https://aikacoffee.jp/easy-at-home-explains-how-to-roast-in-a-frying-pan-and-tips-for-roasting
コーヒーの実を収穫した後、どのように味わうか、3つの方法を試してみることにした。 1)コーヒーチェリーを生食する 2)カスカラティを飲む 3)豆を精製し、焙煎し、コーヒーとして飲む |
いろんなふうに味わえるんだねえ。やってみようよ!
コーヒーの実の収穫
コーヒー収穫祭に、妹と私が母の家に集まった。さあ、とりかかろう。
すっかり大きく立派になった木。最初はほんの、手のひらぐらいだったのに。
生ってる、生ってる。
緑の葉っぱに赤いピカピカの実が映えるなあ。
ここだけ、常夏の雰囲気だ。
東側の窓際にずっと置いてあって、
世話らしい世話はしなかったが、日当たりだけはよかった。
熟してるのかどうか見た目ではよくわからない。
今は、11月半ば。
これから徐々に寒くなっていく。
温暖な気候のものだ、
寒さにやられてだめになってしまってもおもしろくない。
それに、あまり熟しすぎるのも良くないような気もする。
思い切って決断「よし!収穫だ」。
2024年11月13日、収穫。5個。
コーヒーチェリーを生食する
この赤い部分が食べられるらしい。
木に成る多くの実のように、実の中に種があるしくみなのかな。
柿とか、梅とか、枇杷のように・・・?
果物屋さんで売ってるのを見たことがないから、なんだか不思議。
だが「コーヒーチェリー」とちゃんと名前もある。
赤くてきれいではあるが、固くてふわふわしていないから、
たしかに、ソメイヨシノの実に似ている。
あれも、実が生る。おいしくはないけど。
これはどうなのかな。
こわごわ、カッターで皮に刃を当ててみる。
いいね? いくよ!
あ、思ったよりやわらかい、中からヌルヌルのが出てきた。
くるりと刃を入れて、割ってみる。
この赤い皮と、皮にひっついたほんのちょっとの果肉、
ヌルヌルしたところが食べられる。
たしかにサクランボに構造は似ている。
さあ、食べてみよう。5つのうち3つを母と妹と私の3人で一つずつ食べてみる。
あれ、おいしい!
皮が甘いねえ。ちょっと酸っぱい。けど、渋くないよ。うん、おいしい!
おいしいとは全然思ってなかったから、逆にびっくりする。
ちゃんと熟してたようでホッとする。
コーヒーチェリーティー(カスカラティ)
さて、次は、このコーヒーチェリーの皮を天日乾燥させる工程に入る。
これを「カスカラ」という。
さっき5個のうち、3つは食べちゃったが、
残りの2つの皮をそっと剥いて、皮をざるの上で干す。
ざるごと2週間、外に置くことにする。
さあ、2週間経ちました。
量ってみましょう。0.3グラム。
カスカラ10gに200mlのお湯とあるけど、1グラムもない。
どうしよう。10ccでいってみるか。
お湯を注ぎます。さすがに少ない、もうちょっと。
数分待つ。色がちょっと出てきた!
よし、飲んでみよう。
およ、これは、ハーブティだね!
ほの甘くて、たしかにローズヒップティに似ている。
それと、驚くべきかな、「ちゃんとコーヒーの味する!」
どれどれ、とみんなでチュッと一口ずつ飲んでみる。
こんな薄い色なのにコーヒーの味がほんのりするので、全員で不思議がる。
皮なのにねえ!
コーヒー豆の精製
カスカラティは実は前座。今日はもう一つやることがあるのだ。
いよいよコーヒー豆の精製なのだ!
ウォッシュトの手法でコーヒー豆を精製する。
コーヒーチェリーの皮をざるで干しているのと同時に、
種の部分は2日間、水に漬けておいた。
こうしてみると、ほんとうにサクランボの種みたい。
1つの実に2個タネが入っている。
その後、水で洗いながら、タネの周りのぬめりを取り除く。
母から、「オクラの網袋でこすって取っておいたよ!」と報告がある。
ざるに乗せて2週間天日で乾燥させる。
11月29日。収穫が13日だったからちょうど2週間経ったのがこちら。
すっかり珈琲っぽくなっている。
茶色いのが、皮で、さっき、カスカラティにしたもの。
白いのが実。
1個変なのもあるね。けど、あとのはいい感じ。
せっかちの妹は、「できたの?」と言ってくるが、
いいや、まあだまだ。
これから、皮をさらに剥くんだ、脱穀だね、と答える。
爪の先で皮をプチンと押すと、中からは緑色の生豆が!
おおおおお!これは、コーヒー店で写真で見たことがあるぞ。
なんかボソボソしていて心細いが、1グラム、9粒の生豆ができた。
「できたの?」とまたまた妹が言う。
まあだまだ、これから焙煎だよ。
フライパンで焙煎する
さて、お待ちかね、生豆をフライパンで焙煎しよう。
家でフライパンで焙煎するってぇと、つまり乾煎りってことだな。
ってことは、
高温になってセンサーが働いてコンロの火が消えるかもしれぬ。
それを避けるため、温度センサーを解除しておく。
さあ、始めよう。
9粒の秘蔵っ子たちをフライパンに乗せる。
15分経過。炒っているいるうちにハゼるというが、1ハゼどころか、ゼロハゼだ。
・・・、もう少しやろう。
20分経過。ううむ、ハゼる気配なし。少し色がついてきたか。
25分経過。ハゼなし。これ以上やっても焦げるだけでよくなさそう。
もう、これぐらいにしておくか。
ちょっとだけコーヒー色になってきたってことでいいか!
浅煎りも浅煎り、だ。
電動コーヒーミルを久しぶりに出してくる。
父が亡くなってから豆から挽くこともなくなったミルだけど、こんな少ない豆で挽けるかしら。
ダメな時に備えてフープロもあるけどね。
スイッチ、オン!
ブイーン!
おお、できた!
フィルターをセットし、お湯45ccを注ぐこと数分。
うむ? かなり色が薄いが・・・、けど、飲んでみようよ。
果たして・・・?
うむ、色は薄いが、ちゃんと味はコーヒーだ!
上品でいい香りのコーヒーである。
立派にコーヒーが淹れられたよ!
パパのコーヒーの木で淹れたコーヒーだよ。
そう言って、父の遺影に供えた。