松山市立子規記念博物館は道後温泉のそばにある。
館内には、子規と漱石が2か月足らずをともに暮らした
愚陀仏庵(ぐだぶつあん)の再現が展示されている。
このあとに行った萬翠荘(ばんすいそう)には、模型が展示されていた。
愚陀仏庵が移築されていると聞いたが、どこにあるのだろうときょろきょろしたが、
きけば、数年前の土砂災害で、失われてしまったそうだ。
(なお、別の場所での再建プランが後日発表された)
2階にいるのが漱石、1階に子規がいる。
「おたのみぃ!」と呼ばわって、子規の友人たちが俳句の会にやってきたのが、
ここか、と思いながら見る。
当初、どうして文学館といわないのだろう、と思っていた。博物館とは…?
だが、見学してわかった、
これは、子規を中心に松山の近代史を物語る博物館であると。
『坂の上の雲』のようなものだ。
あれは3人の英雄譚ではない。
3人を中心にした明治維新から50年の時代を描く物語だ。
子規の話をするには、子規の家族にふれなければならないし、
そうなると、加藤の叔父という人はとか、常磐会とかの話になり、松山藩とはという話になり、
「ホトトギス」の話をするには「小日本」と陸羯南と日本のジャーナリズムについて語ることになり、
記者として従軍した日清戦争、
どうしても歴史の話になってくる。
漱石が松山赴任当初下宿した「愛松亭(あいしょうてい)」の跡地に、
漱石珈琲店愛松亭という喫茶店がある。
このみかんジュースと紅茶のセパレートティが、思わず二度見するほど絶品だった。
酸っぱいのかと思ったが、みかんとオレンジって違うんだね、みかんは甘くてシロップがいらない。
家でもやってみたいけど、それには、おいしいみかんジュースを入手せねば。
私は、『坊っちゃん』の中で、
最初松山に着いた当初、宿の主が「茶にしましょう」というから淹れてくれるのかと思うと、
おれの茶筒から茶を出して使っている、おれが不在の時も一人で茶にしましょうとやってるのではと不審だ、という箇所が大好きだ。
それでこの日も「茶にしましょう」とくすくす笑いながら、茶を飲んだ。
子規堂に「発句経譬喩品」(複製)が展示されている。
子規門諸氏の作風を野菜に譬えたユーモアあふれる批評。
内藤鳴雪は「卵 滋養アリ小供ニモ好カレル」
他に、つくねいも、さつまいも、山芋、大根、百合根と評している。
漱石のことは、「柿 ウマミ沢山 マダ渋ノヌケヌノモマジレバ」だって!
なんだか楽しそうな会だなと思う。
にぎやかな笑い声が聞こえてきそうな。
みんなおいしそうで、作品を読んでみたくなる。
20歳も上の鳴雪をみんなの人気者、なんて褒めたり、
さつまいもだから屁に注意とか思わず笑ってしまう。子規の愛情を感じる。
こんなふうだから、みんなに愛され、みんなが支えたんだなと思う。
起き上がれないほどの病で若く亡くなることを考えると、どうしても泣いてしまう。