母の歌集の表紙カバーに作品を提供しました!

この度、母が歌集を出版し、表紙カバーに私の作品を提供しましたので、お知らせいたします。

歌集『飛鳥』(ひてう) 原口嘉代子

母は、現在80歳、佐佐木幸綱門下の短歌結社に入会して23年になります。
夫(私にとっては父)を悼む挽歌を中心に、
子ども時代から現在に至る人生の折々について、これまで詠んできた歌を編んだ歌集です。

歌集名「飛鳥(ひてう)」は、王維の漢詩から採ったものです。

華子岡(かしこう) 王維
飛鳥去不窮
連山復秋色
上下華子岡
惆悵情何極

飛鳥(ひちょう)去って窮(きわ)まらず
連山(れんざん)復(ま)た 秋色(しゅうしょく)
華子岡(かしこう)を上下(じょうげ)すれば
惆悵(ちゅうちょう)して 情(じょう)何(なん)ぞ極(きわ)まらん

秋の山に飛び去る鳥の姿をながめていると、
亡くなった人への思いは限りない、という意味の詩です。
この五言絶句の世界にふさわしいものを、と
朱色の紙を巻いたようなクラシカルなデザインにしました。

私が提供したのは、2019年ごろ取り組んでいたシリーズ、
和紙にインクの染みを広げ、その上にドローイングを描いた作品です。
思考がつながり飛躍し重層的に重なっていく様子を表現したもので、
歌集のテーマである、さまざまな思いが重なる長い時間の記憶とも呼応すると自負しております。

1年半前から妹と三人、母の家に集まり、あるいはオンラインで会議を重ね、
内容もカバーも含め何度も打ち合わせしてきましたので、
届くまでずっと緊張し通しでしたが、
想像以上の出来上がりに嬉しさと安堵感がこみあげているところです。

帯文を書いてくださった佐佐木幸綱氏は、私の大学時代のゼミの教授でもあり、
母と私二人にとって万感胸に迫る歌集になりました。

現在、出版社の新刊案内に掲載されていますので、どうぞご覧くださいませ。


ながらみ書房 原口嘉代子歌集『飛鳥』

原口嘉代子歌集『飛鳥』(ひてう)
出版社:ながらみ書房
発行日:2024/09/01
作者:原口嘉代子
定価:2,860円(税込)
判型:A5判上製カバー装
頁数:224頁
ISBN978-4-86629-337-0
https://www.nagarami.org/

(ながらみ書房 ウェブサイトより)

君よりの長き手紙を読むやうに炉辺(ハース)にひとり炎見つむる

曽祖母も祖母母我も張り継ぎて障子よ清し百年の家

紀の国を初めて旅し木と水と石より成れる土地と知りたり

名詞が多く、なかんずく固有名詞が多い歌集だからだろう、めりはりがきいて輪郭のすっきりした歌が多い印象である。歌集には、家族をはじめ多くの人名が歌われ、多くの地名、多くの具体的事象が歌われている。あくまでも具体的な点が特色である。さらに私が注目したのは、作者の好奇心の強さと、行動力である。縄文杉を見るためにわざわざ屋久島まで行った歌、髙橋真梨子の最後のコンサートに行った歌などがあって驚かされた。
—————————————————–佐佐木幸綱 帯文

屋久島の真青の海を胸張りて直線にとぶ飛魚の群

秋植ゑの葱すんすんと伸びあがる春雨降らす空に向かひて

ひもすがら古本屋街歩きにき一冊の本とラドリオの珈琲

廃線の転轍機ギと動かして幻の汽車来さしめむかな

腕組みてかの月見台に立ちをらむ文届けかし雁に託せば


提供作品:
原口比奈子《思考が流れ、飛躍し、重なる》部分雁皮紙、インク 97×150cm 2019