アゲハチョウの幼虫を育ててみることにした(8)

アゲちゃんがサナギになってから4日目、
順調に眠っている。
体長は2.5センチ。
5齢のときは4.5センチだったから、ほぼ半分になった。
色は若干白っぽく、カサカサ乾燥して枯れ葉をまとっているかのような外見だ。

庭にアゲハチョウが飛来する。
あれは、アゲちゃんのお母さんなのか、それとも、
いずれアゲちゃんのつがいの相手なのか、と考える。

数年前に読んだ『チョウはなぜ飛ぶか』( 日高敏隆)によると、
アゲハチョウは足の先に目の機能があって、
足でさわってつがいになる相手かどうか見るらしい。

産卵するのに、樹種をどうやって判断しているのだろうか。
色だとすると、緑の木はたくさんあるし、むずかしそうだ。
においだとすると、うちの今の山椒のようにはげちょろをもし選んだら、まずいことになるだろう。
うちの山椒は結局、葉の量はギリギリ間に合ったが、すごくちいさい木で、
近くにミカンの木はない。餓死の可能性もあった。結構賭けだったと思う。
それに、わたしがみつけたときは、一頭だったが、
卵は複数生みつけられたはずだから、
他のきょうだいたちは死んでしまったのだろうと思うと、
本当にアゲちゃんは、生き残るのが大変なんだなと思う。

ところで、サナギの形で眠っているアゲちゃんを見て、
記憶はどうなっているのだろうと思う。
羽化すれば、芋虫だったときとは身体の形も食べ物もまったく変わる。
もう山椒は食べないし、口吻で液体を吸う。
自分の生まれ育った山椒の木の場所は覚えているのだろうか。
それとも自力で新たな山椒をさがしに、旅に出るのだろうか。

そうだ、羊水に浮かんでいたときの自分だ。
あのころ、食べ物も呼吸のしかたも今とはまったく違っていた。

アゲちゃんは棒でつついても、いやがるでもなく逃げるでもなく、
何を考えているのかわからない様子で、
哺乳類を飼うのとは根本的に違うのだった。
だが、そんなことを考えると、虫とも多少は共感ができる気がする。