アゲハチョウの幼虫を育ててみることにした(1)

裏庭の半日陰に昨年末植え付けた山椒の葉の上に、黒い虫がついていた。
虫だか本当はわからない、くろい、ちいさい、動物のフンのようなもの。
動かないので、虫ではなく病気かもしれない。
とにかく枝ごととって、
お昼を食べた後にでもしらべてみようと、
キッチンのシンクの中においておいた。
これはなんなのか。

1)そもそも山椒に虫はつくのか
わたしは、山椒は虫がつかないものと思っていた。
山に自生する匂いのきついハーブだから、虫には強いはずと。
ところが、これについて調べていくと、驚くべきかな、二つに意見が割れていた。
虫はつく、という人と、虫はつかない、という人。
ネットっていったいなんなんだろうね。

ただ、そもそも、はどっちでもいい。
現実にうちにいるこいつはなんなのか知ればよい。

2)虫だと仮定してなんの虫か。山椒に害をなすものか、駆除すべきならその方法は。
ふむ、アゲハチョウだという人あり。
しかし、わたしのこれまでの知識では、
アゲハチョウの幼虫はきみどり色の割としっかりめの皮のキャタピラ型で、
ガチャピンに似た活動的なやつだったはず。
うちのは、くろくて、ちいさくて、やわらかそうで、ほとんど動かない。
なら、ほかの虫だろうか、調べていくうちに、非常に有益な情報を得た。
それによると、どうやらアゲハチョウの幼虫の初期段階だということがわかった。
いわば第5形態まであって、1から4までがくろくて、5齢でガチャピンになるのだそうだ。
なるほど、じゃあ、こいつは、アゲハチョウか、かなり葉を食ってしまうらしい。
よし、駆除決定。

と、このへんまでオートマティックに考えた。
というのも、この山椒、年末に半額で手に入れほくほくと持ち帰ったが、
植えて間もなく枯れてしまったのだ。

山椒は、山に自生するほどで強いのだが、唯一、植え替えをきらうときいたことがある。
事実、10年前に失敗している。
鉢から植替えたのがまずかったか。
だが、冬には落葉するというから、ただの冬へのそなえかもしれん。
葉が黄色くなって、どんどん落ちていく。
これがどちらか判断することはできなかった。
年始に少々おせち料理に使っただけで、あとは枯れ木になった姿をしょんぼり見やるだけだった。
半額に目がくらんだわたしは恒例の銭失いをしただけなのだろうか。

ところが、この春、新芽を出したのだ。
ああ、あれはただの落葉だったか!
なんだ、そうか、そうか。
これは大事に、大事に育てようぞ。
小さい葉っぱをつけて、買った時よりも一回りも大きく育っているのを
目を細めて初孫を愛でる祖父のような気持ちで見る。
ようやくわたしの膝ほどの高さにまでなった。

そんなふうに育てていた山椒なので、
丸裸にしてしまうというアゲハチョウの幼虫は即座に駆除、と決定したのだが、
これを家で育てている人がいた。
当初は、園芸関係のサイトを見ていたので、被害だとか対処方法とかばかりが目についたが、
虫関係ではわりと人気のようだ。
子どもの要求でしがなく育ててみると案外かわいいという意見に、
なるほどと思った。
これからガチャピンになって、さなぎになって、変態していくのはおもしろそうだ。
なろうことなら、蝶になる瞬間を見たいものだ。
それに、昨夏、芋虫が葉っぱを人がスイカを食うように端から食べるさまを見て、
いっそすがすがしい気持ちにさえなった。
あんなちいさいものが、口をパペット人形のごとく開けて、自分の体の何倍もの葉を食べ、
くねくねとおしりからフンをひりだすのだ。

とはいえ、小さな山椒だ。
葉が食い尽くされ、光合成できなくなれば死んでしまうだろう。
アゲハの幼虫が一生のうちで食べる量は、25cm×20cm。つまりA4一枚程度か。
今の山椒のすべてに相当する。
困った。やはり駆除するか。

ところで、アゲハの幼虫はミカンによくつく、それはわたしも知っていた。
だが、山椒はミカンの仲間だというのには驚いた。
ミカン科サンショウ属。
それにしては、葉の形がずいぶんちがうようだが。
ただ、葉を食べたときの爽快感は、ちょっとミカンにも似ている、といえなくも、ない、か?
ミカンというのでひらめいた。
そばの川の土手に柚子の木が自生している。
ガチャピンになったら、あれをやればいいのではないか。
飼うには生の葉っぱを切らさないこと、と書いてある。
フンも洗い流せという。
めんどうだ。
それまでは外で飼おう。
5齢で、一生のうちの9割以上を食べる。
ならば、4齢まではうちの山椒を食えばよい。
それまで外で飼い、5齢になったら、家へ引き取り、蛹にして、羽化するのを見ようではないか。


※虫の写真注意。

 

 

 

 

 

 

 

 

写真中央の葉の上にいる、黒と白の模様がアゲハの幼虫。
自分で撮ってさえ、よくわからないぐらい、虫とも思えない様子だった。