このところ、書くのが怖くなったり、書きたい主題が固まってから、とか考えすぎていた。もっと気楽に書こう。
今日は、搬入に行った帰りに、清澄白河の深川江戸資料館に行った。杉浦日向子さんの企画展が明日までだった。1年間やってるからいつか機会を見てと思いつつ、いつのまにか会期終了間近に。搬入がスムーズにいかなかったら無理だな、あきらめるかと思っていたが、思いのほか早く終わったので、寄ることにした。大丈夫、今から行けば、1時間見られるよっ!
だけど、その前に搬入の話。
アトリエで描いてるときは、「この絵、相当大きいなあ」と思う。電車に持ち込むときも、あんな大きなもの持ち込んで大丈夫かなと思う。でも、搬入するときは、部屋が大きいから絵がそれほど大きく思えない。あれ、これぐらいのサイズだったっけ?と拍子抜けする。
だから、アトリエで描いてるときも、正しいサイズ感をもって描いたほうがいいんだろうなと思う。とはいえ、空間の感覚っていうのはむずかしい。経験を積んでいくしかないと思う。
搬入は、他の作家も来ていて、みんな一人で黙々と作業をしていた。梱包を解いたり、電動ドリルで作業したり、プチプチをしまったり、だ。ああいう姿をみると、絵は相変わらずアナログで、一人で描くものだなあと思う。
思うに任せないことも多いが、大きい絵を描ける今の状況に感謝しようと思う。以前のアトリエでは、絵を置きっぱなしにしたり、壁に仮に架けたりすることができなかった。気を回すことが多くて制作に集中できなかった。制作に倦むときも、この状況が続く保証はまったくない、来年はどうなるかわからないのだから今描くしかないと鼓舞した。制作する気持ちがなくなることが一番こわい。気持ちがあるうちに制作せねば。
少し年若の知人の作家が、とにかく続けていけばいいんだからとこともなげに言っていた。前を向く決意表明だろうと思うが、私は続けられなくなることはあると思っている。家庭環境、住む場所、仕事の状況、急に病気になることだってあるし、そもそも気持ちが向かなくなることも。私は経験があったから、簡単にはうなづくことはできなかった。確かに若い人は自分の気持ちのコントロールが可能だと信じているものだ、私も。
今は、制作できる今の状況に感謝しながら(うわ、自分で言って鳥肌がたつ!)、日々を過ごしていこうと思う。

それで、深川江戸資料館。知人がすごく楽しかったよ、と言っていたので、ずっと行きたかったけど、清澄白河はうちからちょっと遠い。何かのついでにいけたら、と思っているうちに1年がたっていよいよ杉浦展が終わってしまうので、今日むりやりに行けてよかった。
江戸時代末期の深川佐賀町の町並みが復元されていて、長屋に上がり込んで、生活道具を自由に触れる。台所にお茶碗、枕にお布団とか。おい、はっつあん、なんだいくまさん、と落語の舞台になりそうだ。次は誰かと一緒に行って落語みたいに即席コントをしたい。
海外のお客さんもたくさん来ていて、ボランティアスタッフによる英語の解説を彼らに交じって一緒に聞いた。道具を手渡し、これを使ってみろとか、何に使うと思うかとか、船宿を指しながら川遊びではなくタクシーである、ここで客が待っている、これは川ではなく人口の運河だ、お稲荷さんは今でもコンビニで買える、といった解説がなんだか楽しい。
その向こうではオランダの灌漑とはこの点が違ってとか難しい話をしている人も。
長屋の井戸のそばに外国人の4人家族がいて、私が通りがかると、9歳ぐらいの女の子が私に向かって、あ!と指をさす。ん? すると彼女は自分のセーターを指さす。あ、セーターの柄がお揃いだね。彼女のセーターはウッドストックで、私のはスヌーピー。隣りには学校に上がる前ぐらいの妹がいて、彼女はスヌーピーとウッドストック。私の胸のスヌーピーを人差し指で直接触ってきた。同じだ同じだ、というようなことをキャッキャと言っていた。こんなとき何かおしゃべりができたらよかったのにね。日本語が一切できなそうだったので、きっとツーリストだろう。それにしても、小学生にとってお揃いっていうのはうれしいものなんだなと思う。
英語のガイドさんは生き生きと解説をしていて、お客さんとのやりとりも丁々発止、江戸時代の博物館に行ったのに、かえって海外の観光地に来たような気分になって、もう少し英語ができたらなあと思いつつ、浮かれついでに深川めしの素を買って帰った。
杉浦さんが語る江戸の人々の暮らしは本当にいい具合にいい加減で、のんきで、言葉は粋で威勢がよくって、どっちに転んでも生きていけるさという気分になる。
「猪牙掛かり」猪牙舟のように威勢のよいこと。威勢よく物事を行うさま。
ふうん、ちょきがかり、ちょきがかり、でいこうか!
では、タイムマシーンに乗って、ちょっくら江戸へまいりましょう!


火の見櫓が見える。長屋の屋根に猫。

猪牙を待つ船宿

天ぷら屋さん

長屋 クローゼットがないから下着はどこに置いたと思う? と問いかけられた。屏風の向こうに布団と枕を隠しておいた。銭湯に持っていく風呂桶の中には軽石と手ぬぐい。正面の戸棚にはお茶碗、箱膳も。台所ではご飯を炊くのとみそ汁を作るだけ、おかずは煮売り屋から買えばいい。シンプルな暮らし。

長火鉢と鉄瓶

仏壇もある。桐のタンスの引手って昔っから変わらないなあ。

どこの家にもちゃあんと神棚があるのがおもしろい。

深川江戸資料館 https://www.kcf.or.jp/fukagawa/
企画展「杉浦日向子の視点 ~江戸へようこそ~」
2018/11/13(火) ~2019/11/10(日)