2018/10/29

新しい場所

今夏は暑かった。鉢のオリーブもとうとう葉を全部落としてしまい、こんなことは初めてだったが、それでもめんどうがってうっちゃっておいたが、巨大台風が来るというので倒れては大変と塀際に移しておいた。台風のあとしばらくして、日陰が良かったのか緑の葉っぱがちょびちょびと出ている。最初は雑草かと思ったが、違った。何もしなくても生き返ったのがうれしくて、今までほったらかしにしておいたのを反省しどうにかしようと調べると、どうやら定期的に植え替えをしてやらないとならないらしい。週末に、急に思い立って、植え替えをおこなった。

鉢から根を引っ張り出すと、根がまあるく鉢の形にからまっている。土がなくて根ばかりだ。ごめんごめん、こんな窮屈にさせて。鉢底のネットの網目に根が突きささりながら太く成長しているのを見ると、こんなひどいところに押し込められて、でも、それでも何とか生きようと根を伸ばしている様子に、泣けてくる。こんなにしておいてごめんよ。仇のようにネットを切り刻む。それにしても生命力ってすごいなあ。

からまった根をほぐして、新しい鉢に入れてやる。専用の土は綿みたいにふかふかだ。土独特の甘く虫っぽいにおいがして、優しく根に寄り添う。あったかいベッドにいれてやってるような気になる。よしよし、ここでいい子でおやすみ。

植物の植え替えは、自分を伸び伸びさせることにつながる。植物の世話はつまり自分の世話だ。オリーブは生育が早くてすぐに大きくなるというのに、全然伸びないなあと思っていたのは、実は同じ鉢に入れっぱなしにしていたからかもしれない。引っ越しはちょっとストレスがあるけど、居心地よくしつらえてあるから、なじんでくれるといいと思う。


オリーブ2つ、バラ1つ。

秋晴れの週末、ラベンダーの剪定もした。伸びている枝を切るのは心が痛む。せっかく伸びたのに。でも、切ったほうが木にとってはいい、古い枝は病気になりやすい。そうなのか。でも切っていくうちにだんだん気持ちがよくなって、どんどん切っていく。余計なものを捨てるのに似ている。散髪にも似ている。そういえば、友人のUさんが、散髪も養生の一つと言っていた。こういうことだと思う。私は自分の調子が悪くなると、植物の世話をする傾向がある。たくさんじゃなくて少し、創造的な作業なのもいいのかもしれない。


ラベンダーの枝を剪定すると、手にいい匂いがつくのもいい気持ちだ。

ラベンダーの枝の中をねぐらにしていたカマキリが、私がザクザク切り始めたらさっそく避難していた。夏は透き通るように青々としてスマートな若者だったカマキリ、今は葉の色に合わせたのか茶色っぽくなってずいぶん大きくなった。何もしなかったけど、勝手に飼ってる気になっていた。カマキリは人がいても別に逃げたりはしない、悠然と構えている。この子と一緒に、背中の日光浴をしていた日もあった。ごめんよ、巣をとっちゃって。


うちのカマキリ 別に名前はない

ついでに、桑の木も植え替えようかと思い立つ。鳥が運んできたのかいつのまにか隣家との境界のそばに生えていて、葉を横に広げるものだからいつも枝を切ってしまってかわいそう。いつかちっちゃい実をつけたこともあるから、ちゃんと育てたらきっと楽しいよ。ひょろひょろした細い枝だからと鉢植えから引き抜くような甘い気持ちでいたら、これがなんとリアル「おおきなかぶ」。地中深く根を張って、まったく抜けない。よく見ると、地面近くの枝は細い人参ぐらい太く成長している。同じぐらいの根が生えているとすると、これはオオゴトだ。地植えは気軽にはしてはならないなと思う。ちょっと右、なんてことができない。ゲームじゃないんだから。

5人も助っ人を呼べないのだからといったんあきらめかけたが、もう少しやってみるかとシャベルをいれていく。木ごとねじりあげたりしてようやく引き抜けた。みずみずしい太い根は命そのものだと思う。申し訳ないけど、掘りきれないので切ってしまった。

植物の植え替えは決断力が要求される。今のままで生きているのなら環境を変えずにこのままのほうがいいんじゃないか、いや将来病気になるなら今のうちに手当てすべきだ、いや、無理に植え替えて万が一失敗したら全てを失ってしまう、別に困ってないならこのままのほうが、いやいや、現状維持は低減につながるリスクそのものなのだ、何を残すかが問題だ、この木を生き延びさせるには、これまで頑張ってくれた大枝を大根を切るほかない、とはいえその犠牲は必ず活きるのか成功する見通しはあるのか。

この迷いは人生の決断と同じだ。そんな迷いの果てに、木を植え替えた。体全体を使って、余分なものをそぎ、これまでの労苦をねぎらい、将来を見据えた新しい場所に移して、自分の新しく生きる力になっていればと思う。

春には壁に描いた絵と相まって、緑の枝が描いた線のようになったらいいと思う。


線の絵を描き始めた最初の絵と桑の木