札幌AIRおまけ3「スタジオで読んだ本、弾いた曲」

本のことを言うと、考えてることが如実に表れるので、恥ずかしいなと思っていたが書くことにする。いつもなんでも書いているのは気軽なものだからであって、今回のAIRで読んだ本は本気の勉強のための本なので、けっこう恥ずかしいが、これも制作に影響することだろうと思って書く。

『現代アートとは何か』菅原 教夫
『アート:“芸術”が終わった後の“アート” (カルチャー・スタディーズ) 』松井みどり
『グリーンバーグ批評選集』クレメント グリーンバーグ著  藤枝晃雄訳
『はじめての構造主義』橋爪 大三郎
『職業としての小説家』村上春樹
『人類が永遠に続くのではないとしたら』加藤典洋
『考える練習』保坂和志
『生きる歓び』保坂和志
『猫の散歩道』保坂和志

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毎晩弾いていた曲。
映画「ピアノレッスン(The PIANO)」より『楽しみを希う心THE HEART ASKS PLEASURE FIRST』マイケル・ナイマン作曲
映画「紅の豚」より『マルコとジーナのテーマ』久石譲作曲
映画「紅の豚」より『さくらんぼの実るころ』ジャン=バティスト・クレマン作詞 アントワーヌ・ルナール作曲 これはフランス語で歌っていた。
『ジムノペディ』E・サティ作曲
「平均律クラヴィーア曲集」より『前奏曲 第1番 ハ長調』バッハ作曲

それぞれの本、曲については後日また追記する。本AIRが100%制作のためであったことを証明しようと思う。


 

『現代アートとは何か』菅原 教夫
『アート:“芸術”が終わった後の“アート” (カルチャー・スタディーズ) 』松井みどり
『グリーンバーグ批評選集』クレメント グリーンバーグ著  藤枝晃雄訳
『はじめての構造主義』橋爪 大三郎

この4冊は、現在美術についての基礎知識を学ぶために読もうと思ったもの。
読書はまとまった時間を必要とする。それで本AIRは最適だった。とはいえ、全部読めるとは思っていなかった。まずは新書から攻めようと思った。つまり新書は一般読者を対象にした入門書であるから。それで『現代アートとは何か』から始めた。1日最低1章と決めて、だんだんに読んでいった。AIRの前半に読了した。

つぎに『アート』に取り掛かった。これも1日1章と決めて、コツコツ読んだ。こちらは画像が少ないのに、美術家の名前や作品はたくさん登場して展開が早いので、一つ一つ手元のスマホで確認しながら読んだ。

グリーンバーグは最初から読みにくいだろうと思っていたので後回しにしたが、正解だった。これを最初に読んだら、全部が挫折したと思う。実はまだ読んでいないのだった。ただ、『現代アートとは何か』にエッセンスが紹介されていたので、タイトルだけでも知っているのと知らないのとは大違いなので、やはり新書を先に読んだのはよかったと思った。

『はじめての構造主義』も札幌ではぱらぱらとめくったが、これもちゃんとノートをとって読んだのは離札してから。その後『寝ながら学べる構造主義』(内田樹)も読んだ。学生時代に『悲しき熱帯』を読んだのがこんなところでつながるとは思ってもみなかった。

『職業としての小説家』村上春樹
札幌に着いてすぐには気持ちが落ち着かず本に集中できないだろうと思ったので、読書の流れをつかむためにもスタートダッシュにこういう本が必要だと思って直前に用意した本。最初の2作の次に『羊をめぐる冒険』を書くのだが、前2作とは違った作品を書こうとした。同様にわたしも本AIRが転機になるだろうという予感があった。それと、作家としての姿勢が書かれているはずだと思ったので、孤独を感じたとき心細くなったときの支えになるだろうと思った、春樹さんはいつも孤独な密室で小説を書いているから。
そのことはすでに書いた。http://hinakoharaguchi.com/archives/3480「札幌から帰ってきた」

私がAIRというものを知ったのは、村上春樹がライターズインレジデンスでアメリカの大学に滞在したことを知ったのが最初のきっかけの一つだった(もう一つは中上紀のハワイ滞在)ため、自分が滞在制作をする傍らに置いておきたいとも思った。実際、村上春樹は、AIRのようにいろいろな土地で小説を書いている。

実際には、読み始めたらおもしろくてすぐに読了してしまいそうになったので、あえて抑え気味に進めた。勉強のための読書では、なるべくペースを定めて長距離を走るように読んだほうがいい、ムラがあると結局途中でダウンしてしまうから。この本ばかり夢中になって読んでしまったらペースがつかめなくなる。それに速く読んだらもったいないなとも思った、味わって読みたいと思った。アラーキーの撮ったポートレイト写真がとてもかっこいい。こんなかっこいい春樹さんは初めてのような気がする。読了。離札してから『ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集』も読む。こちらも春樹さん本人の写っている写真が収録。今までそんなことは少なかったはずなのに。足を伸ばして読書する姿がわたしと同じ格好だったので、ちょっとうれしかった。

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『人類が永遠に続くのではないとしたら』加藤典洋
この本は、ずっと大切なことが書かれているから読もう読もうと思ってなかなか読了できない本。まとまった時間がとれるAIRでこそ読みたいと思ったが、これは読めなかった。

『考える練習』保坂和志
『生きる歓び』保坂和志
『猫の散歩道』保坂和志
保坂和志は、保坂自身の言葉で言うと「だらだらと書く」作家で、即興でどんどん書く私の制作と関連があると思っている。「トイレットペーパーのようにどこで切ってもいい」という小説や、前半と後半が違うことを書こうと思った新聞連載などを書いている。どんどん違ったことを考えている頭の中そのもののような気がして好きな作家だ。その中でもこの3冊を選んだのは、『考える練習』は保坂自身の声がそのまま文章になったものだから。『生きる歓び』は、私の最初の作品≪線の可能性≫を作ったときに書いた文章がこの本に触れた文だったから。『猫の散歩道』はとにかく安らぐ本だから。この3冊のみは前に読んだことがある本で、緊張が強い時、夜眠れない時、安心を得るために持っていったが、結局札幌では1ページもめくらなかった。

 

それでふと思ったのだが、構造主義とくにレヴィ・ストロースは、われわれがナチュラルに思い込んでいることは実はナチュラルなものではないと言っていると思う。そこが構造主義らしいところで、その一方、村上春樹は、ナチュラルに自分は自由だと感じました、と言っている。ふぅむ、と思う。といってあまり追及しようとは思わないけれど。

離札してから読んだ『寝ながら学べる構造主義』(内田樹)に、ラカンによる鏡を見て自分だと思い込む幼児の鏡像段階について書かれていて、鏡を使った自画像作品である自作について関係があるような気がした。


 

つぎにピアノ曲について書く。

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映画「ピアノレッスン(The PIANO)」より『楽しみを希う心THE HEART ASKS PLEASURE FIRST』マイケル・ナイマン作曲
映画「紅の豚」より『マルコとジーナのテーマ』久石譲作曲
映画「紅の豚」より『さくらんぼの実るころ』ジャン=バティスト・クレマン作詞 アントワーヌ・ルナール作曲 これはフランス語で歌っていた。
『ジムノペディ』E・サティ作曲
「平均律クラヴィーア曲集」より『前奏曲 第1番 ハ長調』バッハ作曲

マイケル・ナイマンは、ミニマル・ミュージックの現代音楽家である一方、映画のサントラも作っている。ミニマル・ミュージックとは「音の動きを最小限に抑え、パターン化された音型を反復させる音楽」(wikipedia)で、パターンを反復するのは、同じような線を繰り返し描いたりちょっと変えたりして描いていく私の制作手法とも関連があると思っている。実際に中之条ビエンナーレの作品タイトルは≪即興と変奏≫というものだった。美術のミニマルとも関係が深いと知り、ちょうど美術史を勉強していたので、おっと思った。

『楽しみを希う心THE HEART ASKS PLEASURE FIRST』は、言葉を声に出さない代わりにピアノで話すヒロインのテーマ曲であり、情熱的なシーンで流れる。小さな声、声にならない声を考えながら制作していたので、作品に直接的にも関係があった。この曲は、いろいろな感情を乗せて弾くと気持ちがいいし、どんどんつなげてもいいし途中で終わってもいい、テンポを変えて弾いてもいい。自分の手法に近いと思う。保坂和志の「トイレットペーパー」を想起させる。

誰か別の人が作った曲を弾くというのはふしぎな行為だ。美術の模写とは根本的に違うし、オマージュとも違う。このような行為は演奏と朗読だけではないか。曲がある。それを弾く。解釈に沿って、その人の技術や生まれもった性質(声など)、場によって違う作品が生まれる。

曲を弾くときに思わぬ感情が沸き上がるのを感じる。激しく(映画は激しさがテーマだ)、静かに(それもテーマだ)、海のように深く(映画は海がテーマだ)、情感的に(情感的なシーンが多い)、抗うように(映画は抵抗がテーマだ)、あるいは淡々と(ナイマンは淡々とした表情で弾く)。繰り返しテーマが反復されるので、弾くときの感じの比較が強く現れる。≪線のおしゃべり≫を描いていたので、それを補強する意味で、つまり感情を動かす練習として弾いていた。

ナイマン本人が弾く
https://www.youtube.com/watch?v=lfkEyLgmeew
映画の雰囲気がわかる

音楽だけのサントラ

オーケストラもいい

映画「紅の豚」より『マルコとジーナのテーマ』久石譲作曲
映画「紅の豚」より『さくらんぼの実るころ』ジャン=バティスト・クレマン作詞 アントワーヌ・ルナール作曲
これはまぁ好きだからと言えばそうだ。弾くだけで映画が思い出されて気持ちが広がる。久石譲がマイケル・ナイマンを尊敬していることを後日知る。私が好きな傾向の曲なのかもしれない。
シャンソンは話すように歌われる。私は声、言葉について興味がある。このところ練習している歌。フランス語も忘れないようにしたい。

『ジムノペディ』E・サティ作曲
フランスにAIRに行きたい。フランスに行ったらフランスの曲を弾けるほうがいいと思って、そのことを想定してずっと練習している。2012年にWSでフランスに研修に行く際に、母が「ヨーロッパのホテルにはピアノが置いてあって、ママのお友だちが弾いてたけど、ああいうときに弾けるといいわねぇ」と言っていたので、そういう機会があればと思ったのがきっかけで以来弾いている。モンマルトルのバーで弾いていたサティのことを思って弾く。

「平均律クラヴィーア曲集」より『前奏曲 第1番 ハ長調 BWV846』バッハ作曲
村上春樹が「左手と右手をまったく均等に動かすように設定されてい」て、デスクワークが多いと身体の姿勢のバランスが悪くなるので、悪くなった時はバッハの二声のためのインベンションを弾いて治す、と書いていて弾き始めたバッハ(『雑文集』)。『1Q84』はバッハのこの曲集にのっとって書かれていて、作中ふかえりが番号で覚えている。繰り返しがここちよく、ナイマンの音楽とも通じる。ドイツの曲だって弾けたほうがいいに決まっている。

 

このように、美術史、批評の本を読む一方、自分の制作手法とAIRに引き付けた本を読み、ピアノを弾いた。
ピアノは人前で弾くためではなくあくまで自分のために弾いているが、こういうスタジオでもあることだしフランスやドイツの作家がいれば話のきっかけに、などと思っていたが、そんなのは思っているだけで実際にはないことだと思っていたが、最初オーストラリアの作家かと思って『ピアノレッスン』はNZ出身の監督作品だから知っているかと思ったが、よくよく聞いてみるとオーストリアの作家だったなんていうことはあった。が、その一方、スタッフのTさんが「原口さんが弾いてるあの曲、あれは自分の好きな映画で」と、そこから『ナウシカ』が一番好きだという話で盛り上がったので、本当に音楽が話のきっかけになったのは狙い通りだったが驚いたことでもあった。