ただいま荷造り中

 本をたくさん持っていこうと思うが、重いしなと思って、厳選しようとしてもなかなか選べない。そうだ! 札幌の町中なんだし、図書館があるじゃないかとひらめく。図書館で借りて返せばいい、なんて便利。近くにあるかな、あるある! 歩いて行ける距離にあるぞ、よしよし。蔵書検索してみよう、むむ、人気の本は札幌だって当然貸し出し中に決まっている・・・、がっくり。いいアイディアだと思ったんだがなぁ。人気じゃないのはありそうだけど、手に入りにくい本ともなると、やはりこっちから持っていったほうがいいし。となると、図書館に頼りきりなのは問題だな。あればラッキーぐらいに考えておこう。電子書籍の貸し出しもしているらしい、先進的だなぁ札幌の図書館は。うちの地元はまだやってない。4年前にフランスの図書館に研修に行ったとき、もうそんなことが話題に上っていたことを思い出す。どこの町にも図書館があるっていうのは、本当にすばらしいことだと再認識する。そして、どこの町でも本は読まれている事実に、かの地との親しみを感じる。

 なじみが深い本は安心を与える。なかなか読み始められなかった本はせっかくだから持っていこう、なにかのきっかけで読めるかもしれないから。わたしにやる気を出させてくれそうな性格の違う本をいくつか、ピリっとさせてくれる本、やさしくなぐさめてくれる本、勇気を思い出させる本、新しい発見を与える本。そんなふうにいくつものシチュエーションを考えると、いくつも持っていくことになる。どうせ初めての場所で緊張して読むどころじゃないだろうに。前もそうだった、と今書いてみて、思い出した。そうだ、まったく手をつけてない本を読んだんだった。緊張して一晩中眠れなくて一晩中読んだんだった。それでちょっと、元気がなくなってしまったんだった。本も制作も、やってみないとわからないな。作家のTさんにすすめられた本も持とう。

 札幌市内に定山渓という有名な温泉がある。調べてみる。わぁいいなぁ。いろんな温泉があるみたいだ、原生林の中の温泉、ほわん・・・。一日温泉でゆっくりしてもいいなぁ。また温泉に目を奪われている。

 スタジオのブログによると桜が咲いたそうだ。服はどういうのがいいんだろうなぁ、3月末ぐらいの陽気か、もう覚えてないよ、寒くないようにしたいけど、とか服装の心配もしている。脱ぎ着できること、かぁ・・・。札幌に住んでいた知人に聞く。スプリングコートがあったほうがいいらしい。暑いってことはないですよ、でも室内はあったかいんですよね、断熱がしっかりしているから。なるほど。朝、緑地を散歩してみたいな。欲張りかな。
「天神日報~サクラ咲いた~」http://tenjinyamastudio.jp/ct-daily/6695/ 

 せっかく札幌にいくなら六花の森にも足をのばそうか、調べてみる。帯広は遠いな。バスで4時間。美術関係者はかならず帯広のことを言う。森の中に美術館が点在しているところだって。車があればいいんだろうけどね。

 一日に一食はパンか外食にするとして、お米は一日に一合。十日間でざっと1.5kg。1kgのお米っていうのは売っていない。2kgから。そんなことも初めて知る。持っていくより向こうで買おうかどうするか。計量カップはいるのか、おしゃもじは使い慣れたもののほうがストレスがなくて済むか、紅茶のポットは持っていくけど割れたらやだし。作家のTさんは、自分のコーヒーとマグカップをちゃんと持ってきて、打ち上げの時にもキッチンでお湯を作って淹れていた。そうだよ、自分の状態は自分しかわからない。

 切手を用意しようか、でも書けるかわからない。書いたらそれを許してくれる人はだれだろうと考える。

 作家のKさんに教わった和紙の専門店に行く。ないだろうと思っていたロール状の和紙がかんたんにみつかって拍子抜けした。挑戦してみようか。どれぐらい制作できるかわからないけど、材料が足りないなんてことにはなりたくない。といって、バカスカ買うほど資金に余裕があるわけもなし、使いもしない材料を用意して無駄にしたくはない。しかも材料の量に押しつぶされたくもない。気軽に描けることが大事。でも、計画的に描くことも大事。インク、墨、鉛筆、鉛筆削り、カッターは機内持ち込みできない。久しぶりに木に描いてみて、作風が変わったと思って、こういうのもいいかもと思ったが、木は輸送が面倒だ。もうすこし計画を練ろう、とか思っているうちにもう出発だ。日数分のパンツを持っていくだけだよ、とIさんが言っていたのをついでに思い出す。いざとなったら、制作しないでもいいよ、森の中でゆっくりしたっていいんだよ、と自分に言い聞かせる。

 閑話休題。レジデンスに行く、と言ったら、あれ、レジデンスプログラムがついてるやつなんだったっけ、と聞かれたので、ううん、チガウ、自主的に企画したの、と答えた。ヘンダッタカナ~(チョビ風に)。え、食事つかないの!と驚かれる。うん。そんな中、作家のYさんが「無関係の土地で展示するなら、絶対現地に行ったほうがいい」と強く言ったのがうれしかった。他の作家はね、コツコツアトリエで作ってバッと展示した人もいる、中には下見もせずに図面だけで配置を決めたという猛者も、彼女はベテランだし特殊な道具と材料を使う作家だからっていうのはあるけどね、なんか、わたしばっかりそんなことしてっていう気持ちもあるんだけど、と気弱なことを言うと、うん、でもギャラリーの人しか知らない状態より現地に行ってつながりをつくったほうがいいよ、ウン、ソウダヨネ、と思う。まだ全然内容は詰めてないと言うと、向こうで考えてもいいんだし、そのほうがいいかもよ、リサーチから始めてさ、と。ウン、ウン。彼はそういう作家だからそう言ったんだと思うけど、他人の声がそう言うのを聞いて励まされた。

 なんでわたしがレジデンスに行くことにしたか、偶然、知人の個展のパーティで作家のSさんに会って展示の話をしたら「レジデンスはないの?」と聞かれたのが最初のきっかけだった、あれは2月。わたしはそのときはまったく考えてなかったが、Sさんは海外のレジデンスにもよく行っている作家だから、きっとそう言ったんだと思う。うーん、とそのときは否定的でいたが、そうか、そういうことだって考えてもいいんだ、と可能性を考え始めた。その後、くだんのOさんの猫つきアパート留守番求むの話があって、それがきっかけでスタジオが展示会場のすぐそばと知る。わたしの滞在中はOさんはちょうど海外出張中で会えないけど、そんな縁もあってレジデンスを決めた。Cさんが前に行ったスタジオで、Jさんが行こうとしていたスタジオでもあった。