「あたしはあたし」「あたしは強い!」

谷中の森鷗外記念館にて特別展「私がわたしであること ―森家の女性たち 喜美子、志げ、茉莉、杏奴―」
大阪の国立国際美術館にて「森村泰昌:自画像の美術史-『私』と『わたし』が出会うとき」展
先日読んだ本『自画像の美術史』

 この偶然に、やばい、と思う。わたしもどんどんやらないと、数学の発見のようなもので、世界で同じことをやる人は何人か同時に発生する。

 『女の一生』伊藤 比呂美を読む。「あたしはあたし」が何度も出てくる。

 恋は、「あたしはあたし」のはずが、「あたしはあなたで、あなたはあたし」になるもの、と伊藤は言う。依存でもある自傷行為、おしゃれも、きれいに整頓することも、片づけないことも、食べることも、食べないことも。なるほど、と思う。今まで、依存なんてしてないもん、と思ってたけど、依存なんだ、と思えば気が楽になった。もはや、制作は依存だ、とわたしは涼しい顔で言える。(かも・・・いや、まだ日和るか。)

 作家のTさんをコーヒーに誘った、これも依存だったと今なら受け入れられる、その時は恥ずかしく不安が強く、精神的に追い詰められておかしかったからと思ったけど、そうだ、依存先を必死で探していたんだと思う。もう恥ずかしく思うことはない、依存する気持ちのおかげで、TさんだけでなくYさんに初めて会ったり、思いきってKさんのアトリエに遊びに行ったりした。依存先を一つにするといろいろ問題が生じるが、いくつかに分散させれば、相手にも自分にも問題は少なくて済むし、かえってよいことにだってなる。わたしは相当追い詰められてからようやく腰を上げる。しんぼう強く、もう絶対にやだ、となってから行動を起こす。だから、依存症をエネルギーの素にしたっていいんだと思う。

 恋愛は、「あたしは強い」だと伊藤は言う。制作もそうだと思う。制作も、「あたしは強い」だ。強く他者に影響力を持つ。それが脅かされそうになったとき、わたしは不愉快に思ったのだ。なぜ、スタッフのKさんやNさんに対して怒りを感じていたかやっとわかった。わたしのテリトリーを侵されそうになったのをわたしは敏感に察知したからだ。なぜ作家には同じことを思わないのか、作家はフラジャイルだとわかっているからだろうか。同胞と思っているのだろうか。それぞれテリトリーを持つ国家同士と考えているのかもしれない。いや、テリトリーを侵そうとすれば、きっと作家に対してもわたしは同様に怒りを感じるだろう。同様に、ギャラリストのMさんに対してもそう思っていたことをわたしは10年たってようやく気づいた。

 さっそく今日、「あたしはあたし」をやってみた。

「あたしはあたし」、考えたことなかったからわからない。どうやったら身につきますか。

毎朝起きたとき、「今日は何食べたいかなぁ」と考える。そしてその日はかならずそれを食べる。それを繰りかえしていくうちに、何を食べたいか、つまり自分の意思について考えることになり、ハッキリとわかるようになり、「あたしはあたし」ができるようになるのです。(略)かんたんだし、つづけやすいので、ぜひ。 (『女の一生』伊藤 比呂美)

 わたしは今朝、ソフトクリームが食べたいと考えた。アイスクリームじゃなくてソフトクリーム。お店で作ってもらうやつ。できれば普通のじゃなくてオリジナルのが食べたいなと思ったので、谷中に行ってみるかと思ったけど(栗のおいしいソフトクリームのお店がある)、千石に用があったついでに巣鴨まで歩き、とげぬき地蔵のそばのごまの専門店で金ごまのソフトクリームを食べた。よかった。とにかく今日、できた。道々きょろきょろして、甘味処のクリームあんみつで手を打つかと何度も思ったが、ちゃんとコーンにくるくる巻いたソフトクリームを食べた。「あたしはあたし」をやるのは大変だな、一日中そのことを考えることになるな。でもつまり、わたしはずいぶんやるべきことをやってなかったな、と思ったのだった。

 そうだ、ずっと、何を食べたいかなんて考えてなかったと思う。なるべくエネルギーを使わなくてもいいように同じものをルーティンで食べようとしていたし、あるものを食べていた。完全に受け身。何を食べよう、というのは気分が乗ってその場で考えることはあっても、朝考えたことはなかった。食べ物について創造的になったことはなかった。精神的なエネルギーも肉体的なエネルギーもとられたくなかった、エネルギーは一定だと思っていたから。おいしいものを食べたい、そんな欲望を押さえつけていたのかもしれない。この方法は続けやすいそうなので、やってみよう。食に対してはわたしはそもそも不自由だが、トライする価値がそちらの方面でもありそうだ。好きなものを好きなように食べる! なんてワクワクすることか!

『青梅』(思潮社)。詩を書くことは自由だった。(『女の一生』伊藤 比呂美)

 うらやましい。絵を描くことは自由だった、と言える制作をしたい。

☆アナログハイパーリンクな読書
『女の一生』伊藤 比呂美 → 吉増剛造のトークがあるけど、まだ迷っている。「みすず」にも連載中だし、とは思うけど。

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作家のTさんと飲んだコーヒー、を後日また行って撮影した写真。