あいかわらず沁みこまないサリンジャー

 吉田秋生『バナナフィッシュ』の裏表紙はバナナの皮を剥くと魚が飛び出す絵で、「見ると死にたくなる魚か・・・ふざけた名前つけやがって」というセリフを読んで、サリンジャーはセイレーンのような話を書いたのかと思っていた。

 「バナナフィッシュ日和」が元になった小説で、この際原典にあたろうと『ナイン・ストーリーズ』(柴田元幸訳)を読む。

 バナナ穴にもぐりこんでバナナをたくさん食べるものだから、欲張りのバナナフィッシュは穴から出てこられなくなるんだ、とまるで山椒魚のような話をシーモアがする。絵とは違って魚はバナナの皮じゃなくて穴にもぐりこむのだし、そもそもシーモアのおとぎ話でバナナ魚を見てシーモアは死にたくなったわけでもない。わたしの勝手に思い描いていたバナナフィッシュとは別の話だった。

 サリンジャーは中高生のころ読んだが、わけがわからず、夜寝る前に読むとすぐに寝てしまうから万能の睡眠薬代わりにしていた本だった。これが今世紀の傑作と言われてる小説なのか、どこがだろう、と何度もトライしたので、何度も何度も繰り返し読むことにはなった。今読んだら何か違うものが見えるかと思ったが、そんなことはなかった。ただ、アメリカにとって巨大で唯一な存在だということはよくわかった。トウェイン、サリンジャー、ヘミングウェイはアメリカの背骨だ。『フィールドオブドリームス』では、サリンジャーを髣髴させる小説家が登場する。ずっと家にこもって出てこないヘンクツな小説家を引っ張り出すのが、トウモロコシ畑をつぶして作る夢の野球場だ。野球、これもアメリカの背骨。

 と書いて気づいた、アメリカ文学でいいと思ったものがほとんどないということに。唯一ハックとトムは面白いと思っただけだ。合わないものは合わない、またしばらくしたら読もう。

☆アナログハイパーリンクな読書
『バナナフィッシュ』→『ナイン・ストーリーズ』(柴田元幸訳)→『モンキー・ビジネス2008 Fall vol.3.5 ナイン・ストーリーズ号』(柴田元幸編集)