中之条は、若山牧水が『みなかみ紀行』を詠んだ土地で、暮坂峠に詩碑と銅像がある。
会期中、実行委員会が企画する沢渡を通って六合に向かうバスツアーに申込むと、いつもは駅などで観光案内をしているという地元のボランティアスタッフが添乗し、車中いろいろな話が聞けて楽しかった。
秋には牧水まつりというイベントがあって、と聞く。牧水の子孫を招いたり詩歌の朗読をしたりする催しだそうだ。
わたしの大学時代のゼミの先生は若山牧水賞を受けた歌人で現在は選考委員をしている。文学部の友人は先生を指導教官として卒論で牧水を取りあげた。先生は自他共に認める大酒呑み、その友人も相当の酒呑みで、大大大酒呑みの牧水を親しみと畏敬をもって研究していた。
牧水はね、日記に「朝2合、昼2合、夜6合」なんて書いてあってね、ツマミを少し口にするぐらいでご飯は食べずに酒ばかり飲んでいた、まぁお酒もお米からできてるからねとか、死んだときも遺体からいい匂いがして腐らなかったホルマリン漬けになってたらしいと、桁外れの酒豪ぶりを楽しそうに話していた。
そんなゆかりがあって特別な存在だった牧水が中之条で大切にされているのを知ってうれしくなった。生まれ故郷の宮崎と、移住先の沼津、そして中之条で牧水は大事にされているようだ。
という話をその添乗員のKさんにすると、顔をくしゃくしゃにして喜んでいた。ビエンナーレの出展作家なんです、と言うと、驚いてさっそく翌日、奥さんと一緒に会場に来てくれた。地元住民がさまざまな形でかかわっているのも中之条ビエンナーレの特徴である。
牧水については松岡正剛が書いている。「松岡正剛の千夜千冊 若山牧水歌集」http://1000ya.isis.ne.jp/0589.html
明治生まれの歌人の歌が今でも読まれるのは、届かない思いを抱いて旅をする気持ちが現代にも共感を生むからではないだろうか。