作家と作品~中之条への道(28)

 会期が始まって、大勢の作家と知り合うことができた。一年前は、誰一人として知っている人なんていなかったのに。

 ここには特有の関係性がある。仲よさそうに話しているから、よく知っている友だちなのかと思うと、「あの、今頃ですが」と言いながら名乗りあったりしている。傍から見ていて今までの会話は何だったの、と驚くほどシンプルな友好関係がある。わたしもその一員なんだと思うと、とても楽しくなる。まるで昔なじみのような垣根のない安心感。同窓会で久しぶりに会ったクラスメイトみたい。

 だいたい、よく知りもしないうちから、あのう、と言った直後に、車に乗せていってくれない?なんて言うなんて、普段の暮らしではありえないよ。乗っていかない?なんて誘われる、逆のパターンもある。

 名前を聞いたとか、だれそれが話していたとか、展示を観たとか、そんなちょっとしたきっかけから話したりする。昨日までまるで知らなかったのに、隣りのベッドで寝たり、温泉に一緒に行ったり、車に同乗したり、食事を一緒にしたりして、どうでもいい話もするけど、制作や展示のこともずっと話し続ける、まるで中学生みたいに。作家というだけで緩やかな仲間意識がある。

 中之条ビエンナーレは町内5箇所のエリアで開催されていて、範囲が広大だ。それなのにびっくりするのが、昨日、別のエリアで会った作家と、今日、まったく違うエリアで偶然会ったりすることだ。伊参レジデンスで同部屋の人と「まさかの六合(くに)で」ばったり! 伊勢町エリアの作家と四万温泉からのバスで一緒になったり、オープニングで会ったっきりの四万エリアの作家と暮坂・沢渡で、一人で回ってるの?わたしは家族と、なんて話す。昨日あなたの作品を観たよ、四万温泉に泊まったんだ。

 あとね、かわいいな、と思うのは、わりとみんな家族を連れてきているという事実だ。アニキ的な作家があかちゃん抱いていたり、クールな作品を作る作家がお母さんと連れ立って歩いていたり、温泉があるから旅行がてら案内してる、なんかいいもんだ。 

 どこへ行っても知り合いがいてわたしがやぁやぁと挨拶しているのを見て、一緒に行った家族はとても驚いていた、ずいぶん顔が広くなったんだねって。いや、そういうんじゃない、そこらじゅうに作家がいるってだけだ。作家はやはり他の作家の作品もすごく興味があって観たいんだよ。そういうわたしも、すでにほとんどの会場を回った。自分の会場にもいたいけど他の作品も観たいよ、だって、すごい作品がいっぱい、こんな機会ないもの。
 
 それで、作家を知って作品を観ると、なるほどなーと思うことが多い。ああいう感じの人だからこういうのに興味があるんだろうなぁとか、ああ見えて実はこうなのかもなとか思う。だいたい作家と作品はよく似ている。作品のほうが本当だとも思う。

 熱に浮かされたような期間もあと少しでおしまい。とても寂しい。名刺交換して、あ、そうか、この人、岐阜に住んでるんだ、8月から何度も会ってたけど、もう、ちょくちょくは会えないんだ、と急に当たり前のことに気づく。学校みたいにすぐ会えると思っていた。

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急に行きたくなって、何も持たずに出先から発作的に電車に飛び乗った。中之条中毒に罹患したらしい。