ふだん現代美術とは無縁な生活だという知人にOZmagazineを見せながらビエンナーレのことを話した。すると、素朴な、ストレートな質問が出た。複数の人からよく同じ質問が出る。なるほどな、そうだよな、普通そう思うよな、と思った。「よくある質問」として公開する。
Q1)なにで描いてるの?
― マッキーだよ。
そう言うとみんなびっくりする。たまたまマッキーが傍らにあって、え、これ?なんて顔をする。うん、そう。特別な画材じゃなくて文房具なんかで、と思うのか、自分もできそう、と思うのか、それともまったく違うことなのか。とにかく最初に全員が聞く質問。
Q2)壁に描くとき下書きはあるの?
- ないよ。その場でどんどん描くのがわたしの手法なんだ。そこがまぁ、ウリっていうか、ね。
これもちょっとびっくりするみたい。即興がテーマだからね、消せないからどんどん描くしかないんだ、と言うと、納得したようなしないような顔。だって消そうと思えば消せるのにと思ってるのか、じゃあ絶対に間違わないんだスゲーと思ってるのか・・・。どっちも違う。間違うよ、というか、何が間違いかわからないけど、あっと思うことはある、でも人生と同じで前へ進むしかない、今を生きるしかない。あとになってこんな人生だったなんて振り返るより、今いかに充実した生を生きるかということだ、けどそれって普段みんながやってることじゃないの? だからその結果全体がどんな絵になったか、というのは実はあまり興味がないし、よくわからない。ただ、これはこっち側の話。
この話をするついでに、「そのとき思ったことを描くんだ」と話すので、そうか、人とか風景とかじゃないんだ、とも思うらしく、もっとあってもいいはずの「これは何を表現しているの?」という質問はない。
Q3)はしごが見えてたけど、はしごに昇って描くの?
- うん、そう。机も重ねて乗って描いたよ。
普通、絵ってはしごに昇って描かないからかな? それとも大きさにおどろいてるのかな?
ビエンナーレは大規模な作品も多くて、わたしの作品はそれほどでもないほうだ、小さくはないけど。はしごも設営ではよく使われる。慣れてしまうと別に驚くこともなかろうとこちらは思うが、そんなところに注目してるんだと思う。
Q4)色はないの?
- うん、ない。
それについてはこれ以上答えられない。ないって言うだけ。
たまに「これから色を塗るの?」と聞かれるけど、ドローイングつまり線の絵なんだ、と答える。色は塗るものだって思っている人が多いことに気づく。
Q5)ずいぶん広そうだけどここって・・・?
- 木造校舎の教室。広さは30畳で、普通のおうちよりも天井は1mぐらい高いかなぁ。だから広く感じるかもね。
Q6)この部屋は最初から白かったの?
- うん、前々回の作家が白く塗ったらしいんだ。もともときれいだったから、そのまま描けるなって思ったよ。わたしは、扉も塗ってさらに白くした。直接描けるところってそんなに多くないんだけど、ここはいいって言われてさ。
会期が終わったらペンキで塗って元に戻すんだよ、と言うと、またまたおどろく、もったいない、と言う人も。絵ってもったいないって思われてるんだ、とこちらがおどろく。まぁ、そうかもな。
「向こうに泊まりこんで制作してる、壁に描くから当たり前だけどね」と言うとやはりおどろく。絵って室内で描いて、どこかに飾るものだったよね。
質問っていうより、聞いておどろくって感じ。それを聞いてどう思ったのかこちらが聞いてみたくなる。
写真を整理していると、途中の感じのほうがグっと来ちゃうなぁと思う。過渡期にあるもの、現在進行形のもの、ベクトルを感じる。もったいないというなら、いっそわたしはこのすべてをとっときたい。この時間も空気も全部、ぜんぶ。一瞬一瞬その場で思ったこと、全身で受けとったすべての体験を。本当はそう思う。だけどそんなことはできない。