虫助け楽しい~中之条への道(22)

 現地制作に行って最初驚いたのは、自然の「まん中」ということだ。
 わたしが住んでいるのは郊外で、山はないが川はある、蛙だって鳴いているし、自然は別にめずらしくはないと思っていた。そもそも都会にも自然はあるし、と。

 しかし、中之条の伊参地区はまったくちがった、自然の「中」だ。普段自分が暮らしているのは、自然の「隣り」だということに気づいた。なぜそう思ったかと言えば、とにかく虫は普通にいて、人間より虫のほうが数が多いという当たり前のことに気づいたからだ。普段暮らしていると、人間のほうが多いような、人間が虫をコントロールしている気がするのに、われわれ人間が自然の中に入らせてもらっている、という感覚になる。

 伊参スタジオは60年前の木造校舎で、3ヶ月留守にしていたら小さな虫が教室内に落ちていた。隙間から入ったはいいが、出られなくなった虫たち。アルミサッシの窓からは虫は完全に遮断されているけど、木造の窓だから隙間から虫が入る。そういえば田舎帰ると虫っていたよな、と思った。縁側が当然開いててさ。

 制作中、トントン窓ガラスに虫があたるのを聞くと、わたしはそっと窓を開けてやる。こっちだよーと誘導してやるが、なかなか窓が開いているのに気づかない、そりゃそうか、と虫の視野がどうなっているのかを考える。反対側のガラスを開けてみたり、何度もスライドさせてみたり、ガタガタと音と立ててみたりするも、窓枠につぶされないように逆方向に向くやつ、わたしの善意の指から逃げるやつ、で思うように外に行ってくれない。

 それでも根気よくやっていると、何かの拍子に脱出する。勢いよく飛んでいく様子を見ると、ふぅ、よかった、と思う。虫を助けているつもりだ。

 はじめて夜、制作してると、ほかが真っ暗でウチだけ明るいので、とにかく蛾がたくさん集まってきた。別に怖くはないので実害はないが、けっこう大きな音で激突してくるのもいる。

 中にかなり巨大な蛾がいて、さすがにちょっと気持ち悪かったが、窓ガラスの向こうにオバケが見えたら怖いので見ないようにしていたし、制作に必死でそれどころではなかった。ただ、夜に明かりをつけたりして、虫たちに悪いことしてるなぁと思った。

 虫と言えば、昼は校庭に出てお弁当を食べたが、ベンチの足元でミミズが干上がっているのを見て水をかけてやった。あくる日も、同じところにいたので、死んでるのかなと思った。次の日もいた。同じ格好なので、ちょっと足でつついてやったら、曲がった鉄の棒だった、という笑い話。

 人間とまったく会わずに黙々と制作ばかりしていて孤独なので、しょうがないから虫と関わりを持とうとし始めたのかもしれない。

 虫助けをしたい方はもちろん、虫嫌いの方も昼はほとんど虫はいないので心配せずにいらしてください。木造の校舎がとっても素敵です。

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入口から見える壁の線は、自分としてとくに気に入っている。