制作で滞在する作家は無料で温泉に入れるのが中之条ビエンナーレの特典の一つだ。毎夕、事務局の人が四万の町営温泉まで連れて行ってくれる。さすがに運転が上手で、山道もスイスイ、緑のトンネル! そしたら、道端に猿がいたのだ、5匹ぐらい団子になって。まだお母さんにだっこしている子猿もいた。顔が赤くて白い毛でかわいいなぁ。
レジデンスに着いた日、夜出かけるときは持っていってください、万が一の用心です、と、玄関にたくさん熊鈴が置いてあった。町営温泉の壁にも「熊が〇月〇日に出ました」と注意書きが貼ってある。やっぱり出るんだ!
あとは、カモシカですね。でもカモシカは結構レアで、見たことがある人はそう多くはない、カモシカは別に逃げるでなく、まるでシシ神様のようにじっとこちらを見て、たたずんでいるんだそうだ。えー、会ってみたい、そういえば昨秋のオリエンのときにイノシシ見ましたよ。あ、そうでしたね、イノシシは直進してくるから危ないですよ。そんな話を温泉の行きかえりにした。
そして制作4日目の早朝、野うさぎを見た! 朝5時に目がさめて、今なら描ける気がする、と、ガバっと起き上がり、急遽現場にでかけることにした。と言っても歩いて5分だ。だから朝の5時半ごろ、わたしは朝露で湿った道路を登っていく。反対側の歩道を上から小さい動物が駆けてくる。ねこかなと最初思った。でもねこにしては小さい。じゃ、こないだ見たこざるかな、茶色いね、いたちかな、と思っているうちに、それはどんどんわたしのほうへ近づいてきて、うさぎだとわかった。ぴょーん、ぴょーんと跳ぶ。本当にうさぎって跳ぶんだ、と思った。まさにこれが野生のもののもつ「跳躍」。後ろ足で蹴って前へ伸びていく。速い。
あっという間にいっちゃうんだろうな、と思った。そしたら、急に私の5mほど前で急停止して、森のほうを見つめた。私のほうへおしりをむけて、うさぎじゃありませんよ、ボールですよ、と言っているようだった。茶色い小さい毬。でも、化けきれてないぞ、ちいさな耳が見えている。
時間が止まったような気がした。どうなるんだろうと思ったが、今度は90度曲がって森のほうへ跳ねて行ってしまった。
スキーに行くとゲレンデによくうさぎの足跡を見かける。前足が二つならんで、長い後ろ足の足跡はたてに並ぶ。特徴的だからわかりやすい。リフトの上から、野うさぎがいるんだなと思っていた。でも現物を見たのは初めて。わーわーわー、と思って、そのことも作品に書いた。
中之条ビエンナーレのイラストには熊とカモシカとイノシシと鳥(キジ?)がいる。
中之条ビエンナーレのBLOGに、エリア担当の茂木さんによる記事がアップされています。
「原口比奈子さん×伊参スタジオ」 http://nakanojo-biennale.com/archives/1790