2015/03/26

会場の下見 ~中之条への道(1)

 昨日、中之条に会場の下見に行った。
 会場が年末に決まり、秋のオリエンで見ていたけど、その時はほぼ全会場をさっと回って、どこがいいか考えるというためだったから、決まってからもう一度ちゃんと見ておきたいと思っていた。

 会場となる伊参(いさま)スタジオは、もともとは中学校である。手を洗うところに昭和37年寄贈の鏡があったりして、なんだかすごいのだ(と、ここで椎名誠の文体)。その後『眠る男』の撮影が行われ、その後もいろいろな映画の撮影に使われている。常には資料が展示されていて、眠る男のまさに眠っていた部屋も保存され見学できる。毎年映画祭も開催される。

 私の会場は、スタジオの2階の教室の一つである。2階は5つ教室がある。黒板がある教室には「日直:細川・高橋」なんて書いてあるし、机と椅子が置いてある教室もある。私の会場は何もなくて、ただ校舎の角にあたるので三方が窓で明るい部屋だ。室内は前々回の作家がきれいに白く塗ったらしく、そのままドローイングを描けそうだった。

 最初にオリエンで下見に来たとき、ほかにも廃校になった学校がいくつか会場になっていて、自分の通った学校ではないけど自分の学校時代を思い出すなと思った。そんなことを昨秋、考えていて、今回、会場が決まって下見に来たわけだけど、とても不思議なことがあった。

 中之条は高崎から吾妻線で1時間のところにある。3両ぐらいでボックス席もある小さな電車だ。1時間に1本だから、みんなその電車を狙って乗る、地元の人も観光客も。そこへ高1ぐらいの男子の集団20数人がどやどやと乗り込んできた。大きなバッグを持っていたので合宿かなにかか、けどユニフォームのようなことはなくて、私服で、先生もいなそうだった。同じクラスの仲良しグループの旅行? そのわりに人数が多いけど、というそんな団体。

 その彼らが、なんだかみんな楽しそうなのだ。ウキウキしながら、でも普段どおりに、小学生の下校のようにおしゃべりしている。その中の一人が、私が中学の時に好きだった子にそっくりだった。私はその子を見て、中学時代を強く思い出した。その子もいつも男の子たちの輪の中で笑っていた。わたしは数メートル先のボックス席の通路側に座っている彼を、間にあるいくつもの座席を越えてじっと見つめた。まるで修学旅行の車内のようだった。中学の時はこんなふうにストレートに見ることさえできなかったけど。

 学校だった場所を見に行くのに、同級生に似た人を電車で見かけた。映画のはじまりのようだと思った。

 スタジオの、というか学校の校庭のベンチでひとり、おにぎりを食べていると、こんなに天気がよくてこんなに広々としていて、あたりには人が一人もいなくて、びっくりするぐらいだあれもいなくて、自分の食べる音が体内に響く音、というものをはじめて聞いた。

 校舎は古い木造だから、歩くと音がする。私しかいないから、音はすべて私のたてる音だけど、廊下の板材が長いものだから、こっちを踏むとあっちが飛び上がって少し遠くの方で音がするのが何度やっても不思議だった。ん? 誰?

 ビエンナーレのディレクターと相談をする。こういうふうな制作をするつもりだとか、原状復帰のこととか、滞在制作についてとか。壁に直接描くので、一度ちゃんと話をしておきたかったというのがあった。

 本当は、自分の作品について「こんなふうに自分の思ったことをどんどん描いているだけなんですが、いいんでしょうか?」と聞きたいと思っていた。でも、そんなことを聞いてどうするつもりか、と思った。いいと言ってほしいのか、そんなにホメラレたいか。悪いと言われたらどうするつもりか、他のものを作るつもりか、できないだろ。こうしたほうがいいというアドバイス? 他人に責任をおしつけてどうする。まったく意味がないなと思ってやめた。先方にとっても迷惑だ。ただ肯定してほしいなんて、自分の思ったことを言わせたいだけのなんて自分勝手でなんていやな質問だろう、と思った。

 それよりディレクターは、「自分はこういうことを考えてる」と言うと、「ここの扉は白く塗りましょう、その上に描いてもいい」と言ってくれたりして、とても親切というか、協力してくれるというか、制作の性質をわかった上で環境を整えてくれるのだ。これで十分じゃないかと思った。もう私は私のやるべきことをやるだけなんだと思った。制作のことは自分で考えるしかないと思った。もう学校じゃないんだから。いや、ここは学校だけど。

 一通り測定したり机を仮置きしてみたりして試した後、場所に慣れようと思って教室の床に座って全体を眺めた。窓から白いものがふわふわ見えた。雪かなと思った、山で少し寒かったから。よく見ると白梅の花びらが舞っているのだった。・・・と『刑務所の中』ふうな文体。

 秋まで、中之条関係は続けて書くつもりです。

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会場となる伊参スタジオ全景

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黒板の「日直 細川・高橋」

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廊下にある水道の鏡「昭和32年」