それでも楽しみを求める気持ち

 石井桃子の評伝を読んで、ドリトル先生を読みなおしたくなった。子どものころは、なんて楽しい、どんどん読みたくなる、そう思ったけど、戦争と関係が深いと思って読むと、苦しい気持ちと、それでも楽しいものを求めずにはいられない人間の精神を祝福したい気持ちもする。訳者の井伏鱒二も編集者の石井桃子も苦しそうに書いている。

 ロフティングは、第一次大戦で従軍中、息子に送ってやる手紙でドリトル先生のことを書いた。物資運搬で徴用された軍用馬がけがをすると銃殺されるのを見て思いついたお話。石井桃子も従軍中の友人を楽しませようとノンちゃんを書いて送った。井伏鱒二は戦争に行き「南航大概記」を書く。

 最初の日本語版は戦中に出された。戦争中で小説も好きなように書けない井伏さんは、このお話を喜んでくれました、と石井は言っている。戦争で紙もなければ(配給になった)検閲もあって、それっきり。戦後、全巻が訳出された。

 かつら文庫でも一番人気で、続きがあると知った子たちが、どうして全部の日本語訳を出さないんだ、と言うほど、どんどん読みたくなる本だった。もっと読みたくなる、夢中になる、そんな作品はいい。わたしも本心では、そういうの作りたいけどね。

 オシツオサレツは井伏の訳でしか登場しない。原語は「Pushmi-Pullyu」(「Push me – Pull you」こっちを押してあっちを引いてという感じか?)なんとなく楽しい気分になる言葉、口に出しても字面を見ても。

☆今日のアナログハイパーリンクな読書
『ひみつの王国 石井桃子評伝』→『ドリトル先生アフリカゆき』