搬入が気が重いのはなぜか

今日、搬入に行ってきたけど、あいかわらず搬入には慣れない。よく知っている場所なのに、はじめて行ったみたいにとまどう。足が重くて、まるで試験の合否発表を見に行くよう。行きたくはないが行かなくちゃならないから行くのだ。願書をもらいにいくみたいとも言えるな。気合が入るっていうより、まだ、ここにいてもいいという資格がないけどいます、って感じ。帽子を目深にかぶってこそこそ部屋に入り、口の中でもごもご言って提出する。プチプチで巻いた作品をスーパーの袋から出していると、「あ、それごといいですよ」「え、あ、まぁこれはいいですよ・・・あれですから、ムニャムニャ」。悪いことしているみたい。丸めて押し込む。

まさに招かれざる客といった風情で情けない。もし、よくない絵だったらどうしよう、と思っているんだろうか。自分でもわからない。ポートフォリオを作ってる時点ではわりといいと思うんだけど、いいと思っているその視点そのものが信用ならないわけだから、何の確度はない。

でも、これはいつものことなんだ。

また言い聞かせる。「うまい絵はいっぱいあるよ。でも君みたいな絵は一つもない。」

ダリがアメリカに上陸したときのことも思う。こわくてなかなか船から出てこなかったそうだ。

でもやっぱりそういうんじゃないかもなぁ。たしかに去年はそうだったけど。

展示する、という意味がよくわかっていない、というのがある。展示したい、というのがよくわからない。展覧会があるから出す、というのまではわかる。でも、展示したいのか、と聞かれるとよくわからない。人に見せるからちゃんとしたのを作ろうと思う、まではわかる。でも見てほしいか、と言われるとまたわからなくなる。誰に見てほしいか、というのもわからない。

わからないことだらけ。「作る」と「見せる」が、直接結びついていないんだろうなと思う。少しは結びついている。でも、知り合いに見せたい、とかはあまり思わないんだよな。だから招待というのもどうしたらいいかわからない。いいと思う人がいるといいなと思うぐらいだ。わたしの知らない人で、こういうのをいいね、と思う人がいたらいいなと思う。じゃあ自分自身おもしろいと思っているかと言うと、それも100%ではないみたい。少しはおもしろいと思うけど、描いている瞬間が一番おもしろかったから、もう描いたらそれは過去のもので、その熱量は下がっている。だから「やりたいように作れば」というアドバイスも的を射ていない。でも、こういうのをいいねと思う人がいたら、友達になりたいなと思う。というか、そういう人は友達だなと思う。好きになっちゃうと思うな。あのね、こういうふうに描いていたら、ふとこんなふうに描こうとひらめいてね、それで描いたんだよ、とか話したい。そういう人と、こないだ、こんな絵を見てよかったよ、そういう話をしたいなと思う、気持ちのいい午後なんかにさ。そうだよね、あの絵はいいよねと話したら楽しいだろうな、なんの欲もなんのねらいもなく。

だから、来てください、と言うのはなんだか違う。でも、もしいいと思ったら、ぜひメールくださいね。コーヒーでも飲みませんか? ♪握手をしてから、ともだちになろう。だけどちょっと、だけどちょっと僕だってこわいな。

この、「コーヒーでも」というのは、池澤夏樹の『バビロンに行きて歌え』で出てくる、知り合ったばかりの人同士がもう少し、と思うときに使うといい、というセリフ。何度か使っているけど、実はわたしはコーヒーが飲めないのだ。でも、「お茶でも」じゃだめなんだ、ここはやっぱり「コーヒー」なんだ。いつもこの魔法が効くわけじゃないけど、それでも小説のシーンを思い出して言ってみる。魔法が効いてコーヒーを飲むときもあって、あ、これは小説みたい、うまくいった、と勝手に喜んでいる。そういえば、メールだけで近況報告していたアーティストと実際にはじめて会って、彼女に「お昼でも一緒にどうですか?」と誘われたのはそれはそれでとてもよかった。

なんだか話がわかんないほうに行ってしまった。

搬入はだから、まだ好きになってもらってないから、こそこそしてるのかなぁ? だれか自分を好きな人がいたら、堂々とできるのかなぁ? 誰も自分を知らないでいてほしい、その他大勢に紛れ込んでしまいたいと思う。でも、誰かわたしを見つけ出してほしいとも思う。あ、やっぱりそうだ、恋愛に似ている。恋人がいない状態、フリーだから、だれかいい人いないかなと探すのに似ている? 「だれかわたしを好きになってほしいです」という意思表示? 講評会でもないのに、ただの搬入なのに、なんでそこまで考えてるんだろう。むりに好きになってもらわなくてもいいと思っているのに。ありのままのあなたが好き、と言ってもらいたい。あ、やっぱり恋愛だ。でも、なんか違うなぁ。搬入はとても不安、搬出はとてもつまらない。モソモソめしのよう。それでいて、展覧会はけっこう好きで、始まるとずっとやってればいいのにと毎回思うんだよな、へんなの。

描くのはいいんだけど、ヒモをつけたり裏に木をつけたり、梱包したりっていうのが面倒に感じるんだよね。展示したいというのがよくわからないのは、そのためかなぁ。それもよくわからない。

2014/08/23~09/07 12:00-19:00(最終日-18:00)
3331千代田芸術祭2014「3331アンデパンダン」@3331アーツ千代田(東京・神田) 

  フライヤー01 フライヤー02

※ 正しくは「だけど子どもなら友だちになろう 握手をしてからおやつを食べよう」だった。でもいいんだ。